THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『スキャンダル』:「シスターフッド」ものにしてはバランスが取れた良作

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 このブログの熱心な読者なら気付かれているかもしれないが、わたしは「シスターフッド」をテーマとした映画が全般的に苦手である。理由は色々とあるが、「シスターフッド」をテーマとしたそれだけで一定層からの評価がある程度は確約されてしまうために映画全体の普遍的なクオリティを上げる方向にいかない、政治的な価値のあるテーマに居直って描写の拙さやストーリーの無理な展開を押し通す、という傾向が見られることが理由のひとつだ。つまり、「シスターフッド」をテーマとした映画はそうでない映画よりもクオリティが低くなるリスクが高いのである。

 しかし、「シスターフッド」をテーマとした映画にももちろんクオリティが高いものもある。この『スキャンダル』も、それなりにクオリティが高かった。

 

 FOXニュースの重役であるロジャー・エイルズが自局の女性キャスターたちに行なっていたセクハラ事件が題材で、それを告発した女性キャスターたちが主役だ(ただし、マーゴット・ロビーは架空の人物を演じている)。

 キャラクターの描き方は全般的にバランスが取れており、悪役であるロジャーも能力やカリスマ性がある人物であることがきちんと示されている。彼が行なってきたセクハラの詳細も途中までは明らかにならない。それだけに、彼がマーゴット・ロビーに対してセクハラを行うシーンの生々しさや気色の悪さが際立つのである。

 また、「女性同士の連帯」的なものをテーマにしながら、そうそう簡単には連帯が成立せず、女性同士にも駆け引きや相互の不和やすれ違いが存在しているところが描かれているところがよい。実際の事件を題材にしたということも大きいのだろうが、理想論に居直っていなくて現実がちゃんと描けている感じがする。

 シャリーズ・セロンやニコール・キッドマンが演じている女性キャスターたちは実在する人物たちであり、彼女たちは単にセクハラを告発すれば済む立場ではなく、自分のキャリアや保身を考えて戦略的に行動することを強いられている。ここの描き方でリアリティを出す一方で、架空のキャラクターであるマーゴット・ロビーは「無垢」という感じのキャラクターとなっており、力のない新人だからひたすら状況や周囲に振り回されていく。だが、新人であるということは守るべき自分の立場もないということであり、そのために最後にFOXニュースを辞めるという決断を軽やかにすることができる。劇中でセクハラの被害を受ける描写が直接的に描かれているのもこのマーゴット・ロビーだけなので、セクハラが与える苦しみやその罪の重さについて想像できていない観客を作品のテーマを理解させて登場人物に共感させて作品に惹きこむ役割が与えられている、といえる。この辺りのリアリティとフィクションが共存して相乗効果を出している感じは、さすが『マネー・ショート』の脚本家、といったところだ。

 

 ただし、舞台は保守派のFOXニュースであるが製作陣は当然のごとくみんなリベラル派であるので、FOXニュースや保守派については「否定すべきもの」とされている感があるのはやはり気になる。トランプ大統領については彼自身が女性キャスターたちにセクハラを繰り返していたのだからこの映画で批判的に描かれるのは当然であり、そのトランプを擁護していた(そして重役がセクハラを行なっていた)FOXニュースが否定されるのも当然といえば当然であるのだが、マーゴット・ロビーが局内の隠れリベラルの同性愛者とベッドを共にするシーンなどはちょっと作為的すぎる感じもなくはない。