『Search/サーチ』
「100%すべてPC画面の映像で展開」がウリの、ミステリー映画。……といっても、途中からはスマホでの画面付き通話(Facetime)とかTVニュースの映像が登場するようになって、「100%すべてPC画面」は看板に偽りあり、だ。
しかし、そんな細かいことは置いておいて、滅法に面白い映画である。この映画の数ヶ月後に公開された『THE GUILTY/ザ・ギルティ』も同じような「ワン・シチュエーション」型のミステリーでありやたらと騒がれていたが、あちらが地味でつまらない作品であったために、『Search/サーチ』にも期待していなかった。経験則からいって、大胆なことに挑戦したミステリー映画やサスペンス映画って大体は初見のインパクトがすごいだけの企画倒れみたいな作品になったりするものだし。
だが、『Search/サーチ』は面白い。「PC画面だけで展開」という作品の特殊な設定と、描かれるストーリーやサスペンス要素の内容が絶妙にマッチしているのだ。……というか、蓋を開けてみたらオチはしょーもないし、犯人の正体はミステリーとしてはちょっとアンフェアだし(途中でいくつか登場して観客の興味を引っ張る重大な証拠が偽造品だった、というところも肩透かしだ)、「娘を想う父の愛情」みたいなテーマも陳腐ではあるのだが、PCやインターネットやSNSにまつわる諸々の要素をフルに利用した展開の工夫は、観客の興味を持続させて物語に惹きつけるだけでなく、様々な方法で大量の伏線をあちこちに残すことでオチを知ったときにも「あれはそういうことだったのか」となってしょうもなさを緩和させている。また、主人公であるデビッド(ジョン・チョー)とマーゴット(ミシェル・ラー)との間の親子の愛情も、PC画面という設定を活かして実に効果的に演出されているのだ(事件が起こる前の序盤にマーゴットの成長過程や家族の思い出を記録した動画や画像がダイジェストで流されるシーン、物語の冒頭では書こうとして消して送れなかったチャットのテキストをエンディングにてデビッドが最後のシーン、などなど*1)。
途中で容疑者としてデビッドの弟のピーター(ジョセフ・リー)が浮上したときには「もうこいつが犯人だろ」とつい騙されてしまったし、ローズマリー刑事(デブラ・メッシング)の善人っぽさの演出もうまい。ハイスクールではマーゴットは孤立していたのに、彼女のことがニュースになった途端にクラスメイトが親友面をしてマーゴットのことをSNSに書きまくるシーンも、意地の悪い描写ではあるがなかなか皮肉が効いている。葬儀屋のサイトの写真を見たデビッドが事件の重大な真相に気づく展開もちょっとホラー要素があって見事なものだ。Facebook、Instagram、Tumbler、YouCastなどの諸々のSNSからGoogleMapにフリー素材と、ネットに関わる様々な要素があふれんばかりに用いられており、ネットに詳しくない人は置いてけぼりになる可能性があるくらいだ。
また、冒頭からピカチュウが登場するなどポケモンネタがところどころで出てくるところも、好きな人としては嬉しいだろう。マーゴットの好きなポケモン(ユクシー)やある人物が好きな別のポケモンが事件の真相を暗示しているところも、後から気付かされてニヤリとした。
そして、特にわたしが感心したのは、主人公の親子は韓国系であるのにも関わらず、ストーリーには「韓国系であること」がほとんど関わってこないことだ。
アジア系アメリカ人は実際のアメリカに多数存在しているのであり、彼らは人生において「アジア系だからこその出来事」を経験することもあるだろうが、エスニシティとは関係のない個人としても様々な出来事を経験しながら生きているはずだ。
アイデンティティ・ポリティクス全盛なこのご時世では民族的アイデンティティとか政治的メッセージとかを強調しない作風の作品でマイノリティを主役にすること自体がカラーブラインドで反動的だ、という批判を受ける可能性もあるだろうが、そこを気にせずに「アジア系アメリカの父と娘の物語」ではなく「父と娘の物語」を描き切っているところが実に清々しい。ハリウッド映画におけるポリティカル・コレクトネスのゴールは様々であるだろうが、こういう作品が当たり前のものとして作られるようになることをゴールとするなら、それについては大賛成だ。