THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『ブラック・ウィドウ』

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theeigadiary.hatenablog.com

 

・わたしはアベンジャーズの面々のなかではブラック・ウィドウがいちばん好きだし、トップクラスに重要なキャラだと思っているので、彼女の単独映画が公開されたのは喜ばしい限り。

 

・女性ヒーローが主人公ということで否応なくフェミニズムっぽい要素やシスターフッドっぽい要素を出さなければいけなくなるのだが(いや、ほんとは女性ヒーローが主人公だからといってフェミニズムっぽい要素やシスターフッドっぽい要素をだす必要なんてないはずなのだけれど、そうしなきゃ批評家とかツイッタラーとかに怒られるのであろう、お気の毒だ)、面倒見がよく気配り屋さんで自己犠牲的なナターシャ(スカーレット・ヨハンソン)のキャラクター性が幸いして、『キャプテン・マーベル』のようにキャラクターのヒーロー性が自己実現や自己利益の主張に乗っ取られることなく、いい塩梅で物語が描けている*1

 

・いちおう#MeToo運動が背景にあるらしく、ボス敵はハーヴェイ・ワインスタインを模しているらしい。だけれどこういう映画でいかにもありそうな傲慢で支配的で陰湿な敵キャラという感じであり、そしてこういう映画の敵キャラらしく魅力はないし底は浅い。「こいつのフェロモン嗅いだら攻撃できなくなるように操作されているから攻撃できません」というアホみたいな防御策に対する解決策が「お鼻を強くテーブルにぶっつけて鼻を折ったら神経が切断されて攻撃できるようになりました(そのあとお鼻をグイってやったら神経ももどります)」というのもバカみたい。もちろんマーベル映画なんてアホみたいなことやってナンボのものだとはいえるだろうが、「敵はハーヴェイ・ワインスタインなのでどんだけしょうもなく描かれてもよく、そいつを打破する展開はどんだけくだらなくてもツッコミ入れちゃいけません」みたいな空気が作り手や観客にあったらイヤだなと思う。

 

・「ブラック・ウィドウ(量産型)たちは身も心もワインスタインに洗脳されているけれど、なんか赤いガスを鼻元でシュッてやってあげたら一瞬で洗脳から解かれます」という設定も「それでいいの?」という感じ。奇しくもRed Pillを連想させるというか、むしろ#MeToo運動に対する皮肉が混じっているんじゃないかと受け取られてもおかしくないだろう。

 

・冒頭の子どものシーンは、青髪の子がミラ・ジョヴォヴィッチの娘らしいんだけれどなぜか「男の子だ」とずっと勘違いしていて、消去法で妹のほうがナターシャだと思い込んでいたので、「タスクマスターの正体は生き別れのナターシャの兄だな」と的外れな予測を立ててしまい、序盤からナターシャの妹であるエリーナ(フローレンス・ピュー)が出てきても「これは施設に入ってからできた妹かな」と勝手に脳内補完して、けっきょく中盤で家族が再集結するシーンまで間違いに気付かないまま観ちゃった。

 

・エリーナはナターシャに比べると魅力がだいぶ薄い。あくまで脇役としてひとことコメントしているときのみに輝くキャラと思う。それに、ごつくて自己主張が激しいという点ではキャプテン・マーベルとキャラがダダ被りしているので、ナターシャの衣鉢をエリーナが継ぐという展開はやめてほしい(そうなるっぽいけど)。やるにしても、ナターシャのように可憐な女性ヒーローとか自己犠牲できる女性ヒーローを先に加えてからだ。

 

・レッドガーディアン(デヴィッド・ハーバー)はいいキャラしていたが、ちゃんと超人であるという設定なのだから、もうちょっとアクションや戦闘面でも活躍させてあげてもよかったと思う。

 

・ナターシャはムチムチでボインボインの女スパイであるにも関わらず、MCUが世間体を意識するようになってからは「セクシー全開なアクション」や「性的魅力を活かして男を誘惑」みたいなシーンはすっかりなくなってしまい、キャラとしての特徴をひとつ潰されていてもったいなくはあった。ところで今回の映画では誘惑シーンはないのにスカヨハのおっぱいとかお尻とかはがっつり強調されており、冒頭のタンクトップ姿で治療?しているシーンはまだなんとなくメッセージ性みたいなものを感じ取れたが、中盤以降は特に意味もなくお尻が強調されている。よいと思う。

 

・ナターシャとエリーナに対してレッドガーディアンが生理に関する皮肉を言ったらふたりが「あたしたち子宮切り取られるんだけど」「卵管も引っこ抜かれているんだけど」と生々しく語って意趣返しするシーンは、MCUじゃないとできないタイプのユーモアで実におもしろいと思った。

 

・アクションシーンの評判はよいらしく、雪山の刑務所のシーンはナターシャの服に背景とで「白」が二重に映えていて映像的にも素晴らしいと思ったが、全体的にはバトル関係の描写は単調で淡泊。バトル面での敵役であるタスクマスターはキャラも正体もしょーもないし。

 

・しかしスカヨハという「華」がMCUから失われたのはやっぱり痛い。これからはナタリー・ポートマンが出ずっぱりになってくれないかな。