THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『切腹』

 

切腹

切腹

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 脚本も演出もものすごい。食い詰め浪人が武家屋敷の前で「切腹するぞ」と騒ぐことで当座の金をもらうという"ゆすり"が横行している、という設定がまずあったうえで主人公があらわれて、さらに主人公の少し前にあらわれてゆすりが通用せずに無理矢理に切腹させられてしまった若侍がいて、そして実は主人公とこの若侍は関係者で…というのが序盤から中盤にかけて描かれている。ここのあたりはけっこう複雑で特殊な設定となっており、冒頭では説明ゼリフも多いのだが、不自然さやかったるさを感じさせない。そして、「主人公が切腹介錯人に指名した侍がなぜかことごとくその日に限って休みを取っている」という謎を挿入することで、不穏さやちょっとしたミステリー要素を感じさせながら視聴者を物語に惹き込ませる。若侍の切腹シーンの残酷さもすごいものだ。

 主人公の腕前の片鱗を小出しに描きつつ、溜めに溜めたうえで終盤に解放される殺陣も素晴らしい。効果音の使い方や過剰なまでの「風」の演出が印象的だ。

  脚本やアクションも素晴らしいが、「武士道」の美辞麗句の裏に隠れた残酷さや権力者の傲慢を告発するヒューマニズム的なメッセージが作品の主軸となっているのもすごいところだ。黒澤明の作品もそうだが、昔の日本映画のなかでも本当にすごい作品は映画としての完成度とエンタメ性とヒューマニズム的なメッセージやテーマ性とのいずれもを欠いていない。欧米の映画であってもこれら3つの要素のうち2つまでならあっても3つが並び立っているものはそうそうない。

 ある時期から日本のエンタメ作品の魅力は「ゲテモノ」や「バイオレンス」に変わっていたようであり、『切腹』や黒澤作品にあるような良さは失われていったように思える(そして、ある時期以降の日本映画のゲテモノ性やバイオレンス性はいまでは韓国映画に受け継がれているようである)。また、現代ではこのような作品を作ることはどこの国であってもかなり難しいように思える。だからこそ、映画ファンであれば『切腹』はぜひ観ておくべきであるだろう。