THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『この子の七つのお祝いに』

 

この子の七つのお祝いに

この子の七つのお祝いに

  • メディア: Prime Video
 

 

 

 1980年代前半の東京、若い女性が正体不明の凶器で惨殺される事件が発生した。この女に取材する予定であったルポライター・母田耕一(杉浦直樹)は青蛾(辺見マリ)という手相占い師の女の正体を追っており、取材対象であった女を殺したのも青蛾であると断定する。そして、母田は後輩の新聞記者である須藤洋史(根津甚八)と、須藤から紹介してもらったバーのママである倉田ゆき子(岩下志麻)に「青蛾は許せない」と事件にかける情熱を語って、またゆき子とは恋愛関係に発展する。だが、青蛾の正体を探りに会津若松に取材に行った母田が東京に帰ったその晩、彼もまた殺されてしまったのだ。母田の遺志を継いで調査を進めた須藤であったが、彼はゆき子が事件に関わっている事実を知ってしまう。

 実は、ゆき子の母親の真弓(岸田今日子)は「自分たちを捨てた父親に復讐しろ」と幼い頃のゆき子に言い続けた末に自殺しており、母の言葉に呪われたゆき子は唯一残っている父の痕跡である手形を頼りに、青蛾に協力してもらいながら父の正体を長年にわたって探し続けていたのであった。そして、ホテル王の高橋佳哉(芦田伸介)が父親であると突き止めたゆき子は彼の殺害を計画するが、ゆき子の出生には彼女自身も知らない事実が隠されており……。

 

「手形」という小道具の使い方は上手く、殺人事件の残虐さをあらわす血生臭い証拠として使われることもあれば母田・須藤・ゆき子の三人の和気藹々とした会話のネタにも用いられて、そして最後に雪子の出生の秘密を暴露する決定的な証拠にもなる。「通りゃんせ」のBGMもこの映画の怖ろしさと物悲しさの両方にマッチしていて印象的である。また、エロオヤジではあるが正義漢でありお人好しでもある母田のキャラクターはなかなか好感が抱けるし、母親の呪いにとらわれつつも母田への好意とも板挟みになって苦悩するゆき子にも、単なる悪女や狂女ではなくて人間味が感じられる。

 

 しかし、ゆき子の「狂気」の描き方にあまりに説得力がないのが大きな減点だ。特に、大げさなSEを鳴らしながらゆき子が何度も狂気を振るって三人目の被害者を殺害するシーンは失笑ものであるし、心なしか岩下志麻の演技にも力が入っていないように見える(「いつもの"いかにも悪女"な顔をしていればいいんでしょ」というやる気のなさが伝ってくるような気がしてくるのだ)。ついでに言うと三人目の被害者はかなり良い人なのに理不尽に殺されるの気の毒だった。一方で、ゆき子の母親を演じる岸田今日子による「狂気」の演技にはなかなかの恐ろしさが感じられる。

 また、ゆき子の出生に関する真実も途中からだいたい予想が付いてしまうものなので、それを勿体ぶった演出でトロトロダラダラと説明するクライマックスにも気が抜けてしまう。

 

 血が過剰に飛び散るスプラッタ描写もしょうもないものである。総じて言えば、小道具の使い方やキャラクター描写などには光るものがあるが、ストーリーの芯の弱さを過剰で浅薄な演出により誤魔化そうとしているためにこけおどし的な内容の作品になってしまっている、というところだ。