THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『マグノリア』

 

マグノリア [DVD]

マグノリア [DVD]

  • 発売日: 2014/12/17
  • メディア: DVD
 

 

 同じポール・トーマス・アンダーソン監督の『パンチドランク・ラブ』はよかったが『インヒアレント・ヴァイス』はダラダラと長くて途中から見るのがちょっと大変になって、そしてこの『マグノリア』は3時間もある映画だったのでかなり覚悟して見始めたが、予想外にスムーズに観られた(とはいえ全体の3分の2を切ったあたりからはさすがに飽きが生じてきたが)。

 この映画の大オチについては10年以上前からいくつかの本で読んでいたので事前に知っていた状態で見てしまった。まあ確かに何も知らない状態で見ていたらかなり唖然としてしまうようなオチであるかもしれないが、逆に放り投げ出されてしまったような気分になって不満がたまっていたかもしれない。そういう点ではオチを知っていても鑑賞が阻害されたわけではなかった(予定調和的な気持ちで見てしまうために「これからどうなるんだろう」というスリルがない点はマイナスだったが)。また、よく言われることであるが、この映画はロバート・アルトマンの『ショート・カッツ』とかなりの類似性がある。『ショート・カッツ』も最後に見たのは10年以上前だから記憶は曖昧であるが(実家にVHSがあったのでそれで観ていたのだ)、「群像劇+不条理な災害的現象による終わり方」という構図はたしかにそっくりだ。

 ただし、レイモンド・カーヴァーの短編小説群を題材にして田舎町が舞台の『ショート・カッツ』は登場人物たちがリアリティのある代わりに地味な人たちであったのに対して、ロサンゼルスを舞台にした『マグノリア』の登場人物たちはより特殊でエキセントリックな人たちばっかりだ。そのぶん映画としては安っぽくなっているかもしれいないが、フックとなるところが多いので、序盤から映画に惹き込まれやすくなる。映画本編とは関係のない「偶然」に関するいくつかのエピソードから映画が開始するのもいいし、音楽に合わせて場面を目まぐるしく変えながら様々な登場人物の危機を同時に進行させるところもスリルや緊張感があっていい。画面の構図もカラフルだし登場人物を演じる俳優たちも濃い顔をした人が多いので、視覚的な工夫もなかなかになされている。

 キャラクターとしては、なんといってもトム・クルーズ演じるカリスマ的なナンパ師が印象的だ。彼は日本でいう「恋愛工学」のさらにどぎついバージョンを説くことでモテない男性たちから崇められているのだが、アメリカでは90年代からそういうのがあったんだと認識させられる。フィリップ・シーモア・ホフマン演じる看護師の男性も脇役でありながら妙に印象に残るし、持病が悪化して先が永くないクイズ番組の司会者とコカイン中毒になっているその娘、そして娘とたまたま知り合ってデートに行くことになる警官のエピソードもいい感じだ(司会者の娘役を演じているメローラ・ウォルターズは美人なのだが、この映画ではコカイン中毒になっていることもあり終始落ち着きがなく不安そうな顔になっている。そんな彼女が最後の最後に微笑むシーンでこの映画は終わるのだ)。クイズ番組の常連である天才少年と、同じ番組で昔は天才少年として出ていたがいまではうだつのあがらない大人になってしまった男性も、なかなか象徴的な組み合わせである。

 全体の3分の2くらいしたところで、それぞれの場面にいる登場人物たちがエイミー・マンの歌をリレー火傷するシーンが唐突に挿入される。登場人物は全体的にみんな暗く先行きの見えない閉塞感のある状況に立たされているのだが、この歌唱シーンや大オチの後に生じるいくつかの登場人物の状況の打開、最後のメローラ・ウォルターズの笑顔など、物語を暗くさせ過ぎず爽快感のあるものにする工夫がところどころにあるので、観終わった後の後味も良かった。オープニングやエンディングで使われるエイミー・マンの曲や、劇中のBGMも素晴らしい。