THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『アパートの鍵貸します』

 

アパートの鍵貸します [Blu-ray]

アパートの鍵貸します [Blu-ray]

  • 発売日: 2017/12/02
  • メディア: Blu-ray
 

 

 往年の名作映画群のなかでもかなり評価が高い作品なのだが、たとえば『十二人の怒れる男』や『第十七捕虜収容所』のようなサスペンス作品ならともかく、恋愛要素のあるコメディ作品となると昔と現在の価値観の壁のようなものが立ち塞がり、なかなか素直に楽しめないものだ。

 

 主人公はニューヨークの大企業で働くサラリーマンだが、一人暮らしの彼のアパートの鍵が同僚たちの間で又貸しされていて、女をゲットした同僚たちなどが平日の夜であってもお構いなしにやってきて逢い引きの場として利用されてしまう状況である。要するにラブホテル代わりに利用されているということだ。当然、利用する男性たちの多くは結婚していて妻がいる。また、主人公の上司や重役なども平然と主人公のアパートを利用するし、主人公が非協力的な態度を見せたら降格を匂わせて脅迫する始末である。おそろしいのは、彼らがさほど悪びれずに堂々と主人公にパワハラをしていることであり、映画としてもそれをホラーというよりもコメディと描いているところだ。主人公も押しが弱い人物として描かれているが、それにしても最後の方になるまでこの状況を受け入れてしまっていることはかなり理解しがたい。仕事内容自体はのんびりしている感じで「昔のサラリーマンはいいなあ」と最初は思ったが、コンプライアンスのない時代なので公私混同やパワハラが凄まじいのだ。現在のネオリベ競争社会で働くのもつらいものがあるが、縁故主義の時代のサラリーマンにもなりたくないものだ。

 仕事面だけでなく恋愛面などにおいても、全体的に登場人物たちにモラルがなさ過ぎてドン引きするし、感情移入することができない。ヒロインのシャーリー・マクレーンはそんなに可愛くないし、妻子持ちのおっさんとの恋愛に本気になるのもアホみたいだ。主人公も状況に流されすぎで情けのない人物であるし、何を考えているかもよく分からない。

 性道徳もひどいもので、会社のクリスマスパーティーの際にはオフィスのあちこちでディープキスを交わすカップルがいる、という状況には吐き気を感じた。社内ではセクハラ上等で仕事が終わった後にも妻を放っておいて若い女と逢い引きして、女たちは男に依存することしか考えていない、という時代性はいまから見るとかなり不健全で悲しいものである。これが「都会派コメディ」として観客たちから受け入れられていたところも、また恐ろしいものだ。