『CURE』
黒沢清監督のサイコサスペンスもの。この監督の作品はこれ以外には『クリーピー 偽りの隣人』しか見たことないのだが、夫婦関係に問題のある刑事である主人公が心理的に異常な事件を追っているうちに犯人の世界に取り込まれていく…という内容がそっくりだった(もちろん細部は全然違うし、黒沢が原案から作成した『CURE』と異なり『クリーピー 偽りの隣人』は別の作家によるミステリー小説を原作としている)。
スプラッターなシーンはちょくちょく出てくるが怖いものではないし、「人間の心理に潜む異常性とか猟奇性」みたいなテーマもいまとなっては手垢が付いたものではある。人々を催眠暗示して凶行へと駆り立てていく犯人(荻原聖人)のキャラクターも、こういう作品によくあるような「不気味な青年男性」のテンプレの枠を超えない。しかし、この映画を特徴的なものとしているのは主人公である刑事(役所広司)のキャラクター性だ。家庭に問題を抱えていたり過労気味であるとはいえ他の面では仕事熱心な普通の刑事…かと思えば、実行犯たちへの苛烈な尋問や事件への執着にその異常性の片鱗が徐々に見えていって、犯人を射殺して事件が解決したかと思ったところでついに全開になる。犯人の役割を彼が継承したことを示唆するラストシーンは、その独特のカメラワークや思い切った省略もあり、かなり印象的だ。