THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『マッチスティック・メン』

 

マッチスティック・メン (字幕版)

マッチスティック・メン (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 (自称)天才詐欺師の主人公(ニコラス・ケイジ)、半ば弟子で半ば相棒的な立ち位置のパートナー(サム・ロックウェル)、そして突如として主人公の元にあらわれた前妻との間の娘(アリソン・ローマン)…このキャラクターの組み合わせや「詐欺」というテーマ、そしてAmazonの商品紹介でも掲載されている「騙されるのは、あなた。」というキャッチフレーズを見れば、映画について多少なりとも造詣を持っている人であれば誰にでも予想がつくような"驚愕"の"どんでん返し"が描かれる。たしかこの作品は10年以上前に見たような気がするが、仮に今回が完全に初視聴であったとしても、観ていてすぐにオチを予想することはできたであろう。

 ただし、この映画にはこのタイプの「どんでん返し」映画では珍しい後味の良さや爽快感がある。その点では、後味が最悪で不愉快極まりなかった『鑑定士と顔のない依頼人』やそれよりかはマシだがやはり後味が良くない『手紙は憶えている』や『グランド・イリュージョン』なんかに比べると、ずっと良い作品だ。大オチとなるシーンの後にもそこから時を経た場面が描かれるのだが、その場面では最後の最後で騙された人物がむしろ騙されたことによってこれまでの自分を縛り付けていた暗い稼業や精神的抑圧から解放されて健全に生きるようになった様子や騙した側が決して100パーセント勝ち逃げしたわけではないこと、そして騙した側と騙された側との和解が描かれるのである。この場面が存在するためにこの作品はだいぶ甘くてセンチメンタルなものになっているが、そのぶん、騙し騙されのサスペンスに留まらないヒューマンドラマを描くことに成功している。物語の冒頭から神経質で潔癖症な主人公のキャラクター性を冗長なくらいに描いていることからも、この映画はサスペンスではなくむしろヒューマンドラマの方を主眼にしていると考えていいだろう。

 しかし、2010年代におけるリドリー・スコット監督の『オデッセイ』『ゲティ家の身代金』に比べると、この映画は脚本も映像も演出もだいぶ洗練されていないというか、1990年代を引きずる2000年代初頭ならではダサさやモタモタ感の犠牲になっているところは否めない。キャラクラーについても主人公は特徴的で感情移入もできる描写がされているがその描写がちょっとくどすぎるし、逆にサム・ロックウェルは描写が少なすぎて物語上の役割に比べて印象が薄いキャラクターになってしまっている。一方で、ヒロインでもある主人公の娘役のアリソン・ローマンはちょうどいい塩梅の描写がなされているし、その天真爛漫さや無邪気さはとても魅力的だ。この映画の主人公でなくとも、こんな娘がある日いきなり自分の娘だということが明らかになって自分を慕ってくれるようになったら、誰でも舞い上がってしまうだろう。