THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『男はつらいよ:寅次郎相合い傘』

 

男はつらいよ・寅次郎相合い傘 [DVD]

男はつらいよ・寅次郎相合い傘 [DVD]

  • 発売日: 2017/08/30
  • メディア: DVD
 

 

男はつらいよ」はこの作品以外にはシリーズ第一作しか観たことがない。どうやら過去の作品でもヒロインとして登場したリリー(浅丘ルリ子)が、この作品では再登場を果たす。二度目の登場なだけあって、ヒロインが登場時点から車寅次郎=寅さん(渥美清)とかなり親密な関係を築いていることがこの作品のポイントだ。

 前半では、寅さんとリリーに「パパ」と呼ばれる中年男性(船越英二)を交えた北海道での三人旅が描かれる。このパートでは北海道の名所の映像も眺められて、ロードムービーとしての爽やかな良さが味わえる。後半では葛飾を舞台に、寅さんとリリーとの間の純粋性と爛れた感じが入り混じった独特の関係性に焦点があてられる。

 気軽に身体も触れあう男女であるが性愛とかましてや結婚を持ち出すことは互いにタブーとなっている、気ままで自由でだらしなく無責任に生きたいと願っている中年を過ぎた男女同士の微妙な関係性の描き方がこの作品のキモとなっている。寅さんはフーテンだしリリーは歌手と称しているがどう見ても水商売の女だし、どちらもまともではないのだ。しかし安易にセックスに流れず、かといって色恋を切り捨てて割り切った友情というわけでもない、友情と恋愛とでの微妙な関係性が他人事としては実にリアルである。わたしにはこういう関係はちょっと無理だが、友人などに実際にはこんな関係性を(現時点では)成立させられている男女もいる(中年ではないが若者と呼ぶのもつらくなっている30代の男女だ)。わたしとしては、互いに表面的には夢中になりつつも実際的には本気で将来の話を持ち出すのはNGということが織り込み済みのこのような関係は、欺瞞に満ちていて非生産的なものであると思える。

 どうやらシリーズファンの間では名場面とされている「メロン騒動」のシーンも、寅さんの自己中心性やアダルトチャイルド性を嫌なかたちで表現していて端的に不愉快であった。そもそも"人情味に溢れている"ことがウリであるはずなのに表情のバリエーションに乏しくて単調な顔をしている寅さんには、その存在自体に浅薄さと不気味さが付きまとうのだ。