THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

ひとこと感想:『リング』&『男はつらいよ:口笛を吹く寅次郎』&『アンセイン:狂気の真実』

 

●『リング』

 

 

リング

リング

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 わたしが小学生の頃に大流行りしたホラー映画で、貞子のあの格好もテレビ画面から出てくる例のシーンのパロディをテレビから漫画までいろんなメディアで見かけたものだ。

 大人になるまで怖いものが苦手だったわたしはこの作品を避けてきて、31歳になって初めて観た次第である。すると、予想以上に怖くなくてびっくりした。「成長したからホラー描写が大丈夫になった」とか「貞子というキャラクターがパロディの末に陳腐化したから怖くなくなった」とかではなくて、この作品自体がそもそもそんなにホラー映画じゃない。どちらかというと、SFの入ったミステリー・サスペンス作品に近いものだと言える。……とはいえ、ミステリーやサスペンスとして観ても、大して優れているようには思えないけれど(Wikipediaなどを見ると原作小説はもっとミステリー寄りであり、ホラー要素を強調するためにミステリー要素を削った結果どちらも中途半端なものになった、ということかもしれないが)。

 主役である松嶋菜々子の未成熟で甘ったるい声色はどうかと思うし、夫役の真田広之は逆に格好良過ぎてどうかと思う。最後に判明する、呪いの回避方法が「呪いのビデオをダビングして他人に見せる」という理由もよくわからない

 怖くなかったと書いたが、さすがに貞子がテレビ画面から出てくるシーンはちょっと怖かった。しかし明確な恐怖シーンはその一点のみであり、「じわじわと怖い」というところもない。まあそのぶん普通の映画としてそこそこに楽しめた感じである。ラストシーンのちょっとした「究極(でもないけど)の選択」な感じや罪悪感を漂わせるエンディング自体は悪くないと思う。

 そういえば、京極夏彦『妖怪馬鹿』という本で『リング』や『呪怨』のことを指しながら「幽霊が関係のない人を襲いまくる昨今の風潮はおかしい。幽霊は生前に恨みを持っていた人間を襲うものであって、縄張りに入った人間を関係なく襲うのは妖怪の仕事だ」と怒っていた。実際、『リング』を観ていてもなぜ貞子が呪いのビデオなんて生み出してあちこちの人に迷惑をかけるに至ったかはよくわからない。

 

●『男はつらいよ:口笛を吹く寅次郎』

 

 

男はつらいよ・口笛を吹く寅次郎 [DVD]

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男はつらいよ』シリーズを見るのはこれで4作目だが、寅さんの不快さが目立った『寅次郎夕焼け小焼け』『寅次郎相合い傘』に比べて、『口笛を吹く寅次郎』は寅さん(渥美清)があまり他人に迷惑をかけず、坊さんの真似事をすることで備中高梁のお寺の一家をちゃんと助けているところがいい。また、他の作品に比べてギャグが多めだし、それもしっかり笑える。寅さんが坊主の真似事をするというのは、実に『こち亀』的な展開だ。そんな寅さんと遭遇したさくら(倍賞千恵子)が「また悪いことしているんでしょ」と決めつけてかかって泣き出すシーンも笑えてしまう。

 ヒロインの竹下景子もしっかり美人だし、ラストシーンでの相手からの愛の告白を自分から冗談めかすことで避けてしまう寅さんはなかなか切ない。この場面での竹下景子の演技もさすがという感じだ。「もういい歳なんだしこんな美人に求婚されたんだから結婚すればいじゃん」と思うし、ここでそれを避ける寅さんの気持ちもよくわからないのだが、まあ結婚したらシリーズが終わってしまうので仕方がないのだろう。

 

●『アンセイン:狂気の真実』

 

 

アンセイン ~狂気の真実~ (字幕版)

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  • 発売日: 2018/09/26
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 ソダーバーグ監督で、全編iPhone7のカメラで撮影されたことがウリな作品。同じ手法で撮影された『ハイ・フライング・バード:目指せバスケの頂点』では違和感はなかったとはいえそもそもiPhone7のカメラで撮影する意義が感じられなかったが、タイトル通り「狂気」に関する物語である本作では、精神病棟に放り込まれた主人公の不安な心情を表すという点でなかなか効果的であったと思う。

 ストーリーは大したことがなく、同じくソダーバーグ監督作品でやや近い題材を扱った『サイド・エフェクト』が名作であったのに比べると、こちらは格段と質が劣る。しかし、ハズレの少ない安打製造機的な監督であるソダーバーグの本領が発揮されており、大したことがないわりにはなぜか興味が持続してフツーに"観れる"作品であることも確かだ。

 主人公が精神病持ちで舞台は精神病棟、となると主人公の幻覚オチを疑ってしまうところだし、実際に序盤は「主人公がおかしいのか周りがおかしいのかどっちかわからない」という雰囲気を匂わしてくる。主人公がたまたま訪れた精神病棟が異常な場所であったうえに、それとは別ルートの異常者である主人公のストーカー(ジョシュア・レナード)が精神病棟の職員として働くようになる、という設定の非現実さも、主人公側の狂気を匂わせてくるところだ。しかし、主人公の母親(エイミー・アーヴィング)などの外部の人間が関わるシーンが出てくることで徐々に「実際に周りが異常なんだ」ということが観客にも伝わるようになってくる、という構造がうまい。……うまいと言ってもそれが作品に説得力をもたせたり作品を名作にしたりしているわけではないのだが、少なくとも観客の興味を持続させる効果はある、ということだ。

 ただまあ、『サイド・エフェクト』にはすっきり痛快なエンディングという強みがあったのに比べて、『アンセイン:狂気の真実』もエンディングは少し捻って印象的なものにしてはいるのだが、特に作品の評価を上げさせるほどのものではない。まあ、ただ単純に、それなりのスリラー映画という以上でも以下でもない作品である。