THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『コーチ・カーター』

 

コーチ・カーター (字幕版)

コーチ・カーター (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 

 カリフォルニア州リッチモンド高校は落ちこぼれや貧困層の若者が集まる学校であり、生徒の大半がアフリカ系アメリカ人であるということもあって、卒業生の多くは逮捕されて刑務所で過ごす始末であった。そんななか、バスケットボール部のOBであるケン・カーター(サミュエル・ジャクソン)が、コーチとして赴任する。そして、学業の不振により大学に進学できる学生もひと握りなリッチモンド校の校風を嘆くカーターは、部員たちと「俺がお前らを大会で勝たせる代わりに、お前らは行儀や礼節をもって行動し学生の本分である勉強も行え」という旨の契約を結ぶのであった。

 カーターの強烈なスパルタ・トレーニングや、「ニガー」などのスラングを使ったり口答えをすることも許さない徹底的な指導、そして約束通りに大会での勝利に導くその手腕に、当初は反発していた部員たち( ロブ・ブラウン、リック・ゴンザレス、ナナ・グベウォニョ、アントウォン・タナー)もカーターのことを認めて彼を慕うようになっていく。しかしそこは所詮は体育会系の学生である彼らのこと、大会で連勝して調子に乗るバスケットボール部員たちはパーティーで礼節を忘れたバカ騒ぎをするだけでなく、「学生の本分である勉強を行う」というカーターとの契約も部員たちの大半は守っていなかったのだ。

 怒れるカーターは、「成績を上げるまで、バスケの練習も試合も禁止だ」と体育館を閉鎖してしまう。これには部員たちだけでなくリッチモンドの校長や部員の保護者達も反発して、マスコミも出動する大騒ぎになるが……。

 

 いわゆる「スポ根」ものでありながら、学生の本分である「勉強」の大切さを強調するストーリーであるところが実に好感を抱ける。

 たとえば、『BUNGO』という中学生野球の漫画では「俺は頭が悪くて勉強はできないから野球で頑張って推薦を勝ち取るしかないんだ」というキャラクターが出てきて周りの大人もそれを肯定してしまうのだが、「中学生が自分のことを“勉強ができない”と決めつけてしまい、勉強をせずに野球に打ち込むというリスキーで後々の人生に悪い影響が出る可能性の高い選択をすることを周りの大人が止めもしないのはダメでしょ」とモヤモヤしたものだ。

『コーチ・カーター』のなかでもバスケットボール部員たちの保護者や校長は「この子はどうせ勉強できなくて大学にも行けないんだから好きなだけバスケットボールをやらせてやるべきでしょ、それしか得意なことがないんだし、”高校生時代にバスケットボールに打ち込んだ思い出”よりも素晴らしいことをこの子たちが得られるわけないんだし」と決めつけているのだが、それを、カーターは毅然として否定するのである。実に「教育者」の鑑という感じで、素晴らしい。

 また、登場人物の大半はアフリカ系アメリカ人でありアフリカ系アメリカ人貧困率や収監率の高さにも言及している、反・人種差別的なメッセージの高い作品であることは間違いないのだが、一方でカーターが「規律」や「礼節」の重要性を強調するバランス感覚にも好感が抱けた。イマドキの作品だと「反人種差別」がカウンターカルチャー的な発想に結びついてしまい*1、「反体制」や「反秩序」を言い出して、「礼節とか規律とかも白人マジョリティの価値観の産物だから守らなくていい」とかになりかねないからだ*2。つまり、根本のところはかなり保守的でぬるい価値観に基づいた作品なのである。しかし、だからこそ、ポジティブな視聴感や普遍的な感動が得られる物語を描けているのだ。

 

 とはいえ、「勉強」や「規律」をめぐるドラマは面白いが、そのために肝心のバスケットボールの試合のシーンが物語をすすめるための舞台装置やおまけになっているという感はある。バスケそのものはこの作品のテーマではないのだが、話の内容的にバスケットボールの試合にもある程度の尺は割かなくてはいけない……というジレンマが伝わってくる。また、カーターによるバスケットボール部員の指導というメイン部分は面白いのに対して、個々の部員ごとのエピソードはかなり陳腐なものであるし(彼女が妊娠したけど進学したくてあーだとか、ヤクを売っているいとこが殺されてしまってこーだとか)、1990年代の名残がある2000年代初頭の作品ということもあって演出もところどころダサい。

 とはいえ、筋肉隆々の体育会系の若者たちがメインどころで数多く出てくる作品を見る機会がわたしにはあまりないので、そういう点では新鮮な楽しさもあった。体育会系の若者特有のテストテロンの高そうさは隠しきれず、「実際の話だったら、こいつら裏ではイジメとかもやっているんだろうなあ」ということをふと想像して、イヤな気持ちにもなったりしたけれど……。