THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『マーシャル 法廷を変えた男』

 

マーシャル 法廷を変えた男 (字幕版)

マーシャル 法廷を変えた男 (字幕版)

  • 発売日: 2018/01/01
  • メディア: Prime Video
 

 

 戦時中の1940年、当時の全米黒人地位向上協会(NAACP)で唯一の弁護士であったサーグッド・マーシャル(チャドウィック・ボーズマン)は、無実とおもわしきレイプ容疑で告発された黒人運転手のジョゼフ・スペル(スターリング・K・ブラウン)を弁護するために、コネティカット州に飛ぶ。そして、地元のユダヤ系弁護士であるサム・フリードマンジョシュ・ギャッド)を相棒にして、二人三脚で……というよりも経験豊富で才覚豊かなマーシャルがサムにあれこれ指示を出す形で、法廷に挑むのであった。狡猾なローリン・ウィリス:検事(ダン・スティーヴンス)や頭の硬くて保守的なカール・フォスター判事(ジェームズ・クロムウェル)に苦戦させられながらも、レイプ被害者を自称するエレノア・ストルービング夫人(ケイト・ハドソン)の証言の嘘を鋭く見抜くマーシャルであったが……。

 

 反・黒人差別というテーマを堂々と掲げながら、古典的でシンプルな法廷劇をやっていく感じの作品だ。マーシャルは欠点がほとんど存在しない、有能さと使命感に溢れるヒーローとして描かれているが、『ブラックパンサー』を演じただけあってチャドウィック・ボーズマンにとってはピッタリの役柄でありその演技は堂に入っている。一方で世俗的な性格をしておりミスも多いサムは観客が感情移入しやすい人物として描かれているし、彼もまたユダヤ系という非差別人種であるところが微妙に物語に関わってくる点もよい。サムとマーシャルの関係には「バディもの」としての面白さもある。

 肝心の法廷パートは、判事との初顔合わせや陪審員選びから始まって、検察側の証人の矛盾を指摘できたと思ったら思わぬ一撃を検事から食らって、審理の間に盤外戦も繰り広げられて…と、「法廷もの」の醍醐味を過不足なく描く感じである。ただし、事件の真相やその暴き方自体はありがちなものであってさほど面白くない点がマイナスだ。鳴り物入りで登場し陪審員リッチモンド夫人(アーナ・オライリー)がそのあとの展開にほとんど関わっていないことはちょっと残念だったが、告発された側であるジョゼフ・スペルや告発した側であるストルービング夫人がそれぞれにそれなりのキャラが立っているところは及第点だ。

 もはや歴史に近い時代の出来事を描いた作品ではあるが、ジョージ・フロイドの死に端を発する昨今のアメリカの事情を思うとやはり考えさせられるところはある。過去の時代の差別を描く映画は多々あるが、「法廷もの」は「古い価値観と新しい価値観との争い」をエンタメに仕立て上げて描けるという点で絶好のジャンルであるのだろう。