『ザ・コンサルタント』+『ザ・ウェイ・バック』+『ジャスティス・リーグ: ザック・スナイダーカット』
●『ザ・コンサルタント』
2016年の公開当時はイロモノなアクション映画だと思ってあまり期待せずに劇場に観に行ったのだが、観てみたらめっぽうに面白く、年間ベスト級。『イコライザー』や『ジョン・ウィック』の系列かと思っていたらかなり違っており、それらの作品よりもアクション映画としてのストレートさや盛り上がりには欠けている代わりに、奥行きがずっと深い。先日、続編が作られることが決定したことは実に朗報である。
なんといってもベン・アフレック演じる主人公のキャラが良い。自閉症スペクトラム障害(ASD)に由来する集中力や知能+軍人の父親によって子供の頃から鍛えられた戦闘能力で専門家としても戦闘家としても無双するところには「なろう」物的な面白さもある。ASDという主人公のバックボーンがストーリーにもキャラクター性にも深く関わっているし、全体としては陰鬱な物語であるはずなのに、爽快で楽しいエンタメ作品に仕上げられている手腕は見事というほかない。そしてベン・アフレックが役柄に実にマッチしている。会社の女の子や親切な老人夫婦に対して接する仕方はまさに「コミュ障」そのものであるが、クマさんみたいな体型をしているベン・アフレックが可愛らしく見えるのだ。
そして、公開当時には意識していなかったが、アナ・ケンドリックが演じるヒロインも実に魅力的。「何も知らずに巻き込まれてしまった平凡な女性会社員」としての役柄がぴったりだ。お人好しな女の子として主人公にグイグイとコミュニケーションをはかっていくところはやはり可愛らしいし、エピローグで主人公から絵が贈られるくだりもロマンティックで気が利いている。
ボス敵が主人公の弟であったことが徐々に判明するあたりは、肩透かしでありながらもこの作品の奇妙なオリジナリティにもつながっている。そして、主人公をサポートしてきたオペレーターの正体が判明するくだりには、かなり独特な感動がある。単純なアクション映画ではとうてい描けない、この作品ならではの世界観の広がりが示されていた。
●『ザ・ウェイ・バック』
『ザ・コンサルタント』と同じくギャビン・オコナー監督とベン・アフレック主演のコンビニによる作品であったのが、こちらは残念ながらかなりの期待はずれ。ケイシー・アフレック主演の『マンチェスタ・バイ・ザ・シー』とサミュエル・ジャクソンの『コーチー・カーター』を足して、2ではなく4で割ってしまったような趣だ。アル中映画らしい陰鬱さはあるし、スポーツ映画らしいお決まり感もあるが、感動やドラマ性には全く欠けている。バスケットボールの部分は選手の学生たちのキャラが薄くてほとんど面白みがないし、主人公はけっきょくアルコールから抜け出せずに元の木阿弥に戻ってしまう展開のせいでスポーツ展開の意味が雲散霧消してしまうのだ。『ザ・コンサルタント』の予期よりもさらに発育してクマさんから巨グマに進化したベン・アフレックの体型だけが見ものな作品である。
●『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』
ベン・アフレックつながりでこちらの作品の感想も書いておこう。
ジョス・ウェドン版の『ジャスティス・リーグ』は公開当時に劇場に観にいってがっかりした思い出があったけれど、こちらの作品はそれなりに面白かった。序盤でじっくりと仲間集めをするパートには少年漫画や「七人の侍」的な面白さがあるし、ウェドン版に比べてサイボーグ(レイ・フィッシャー)とフラッシュ(エズラ・ミラー)という青年コンビをストーリーのメインとした構成も、ドラマ性や感動を大幅に引き上げていて正解であると思う。…とはいえ、一作のなかでこのふたりのオリジンも描きつつスーパーマンも復活させなきゃいけないという構成にはかなりの無理があり、とくにアクアマンは割りを食ってしまい目立った活躍ができなかった。
ワンダーウーマン(ガル・ガドット)はウェドン版ではチームの「お母さん」として振る舞わさせられていたためにチームメイト全員から好意を抱かれている感じが気の毒かつ気持ち悪かったのだけれど、スナイダー版ではチームの一員として他メンバーと対等な立場にいられているし、同胞を全滅させられた恨みからボス敵に対する最終的なトドメを刺せる立場を与えられたのも良いと思う。とはいえ、ウェドン版に比べてキャラが薄くなっていることも否めない。
ボス敵のステッペンウルフについては、社長からの評価を得るために必死で奔走するという気の毒なサラリーマン風のキャラ付けがされたことで印象には残るようになったが、魅力的かというと依然としてそうではない。ハリウッド映画では上等なゴブリンやオーガみたいな見た目のモンスターがボス的になりがちだけれど、その時点で萎えてしまうところがあるよね。一作目の『アベンジャーズ』と比べるとスナイダー版の『ジャスティス・リーグ』は「神話っぽさ」や「仰々しさ」が強調されているが、そのせいで面白さが損なわれているように思えるのだ。
なんだかんだ言って、映画を通じてわたしたちが観たいのは神話ではなく人間たちのドラマなのである。『アベンジャーズ』では(いちおう神様であるけれど)人間臭く生々しい(けれど美男子な)ロキを敵役に据えていることがポイントであった。そして、『アベンジャーズ』シリーズではヒーローたちの長所だけでなく欠点もくっきりと描かれているからこそ、力を集結させたときの感動を生じさせることができたのである。
主役であるベン・アフレック演じるバットマンは、仲間集めに奔走したりバットモービルを駆使して色々とがんばったりはするけれど、フラッシュやサイボーグと比べるとやはりキャラは薄い。それはスーパーマンも同じ。また、期待していたジャレッド・レト版のジョーカーが出るシーンが夢オチで済まされたり、最後の最後でなんかよくわからん火星人が味方になるところとかは蛇足もいいところ(ベン・アフレックが寝起きでポカンとしている点は面白かったけれど)。
まあ結局のところ、元々の条件からして、誰が監督しても歪みや無理が生じてしまい、優れた完成度にすることは不可能な作品であったのだろう。
とはいえベン・アフレックがバットマンのハマり役であることは疑いもない。ロバート・パティンソンもいいけれど、ベン・アフレック監督・主演の『ザ・バットマン』も観たかったものだ。