THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『キャッシュトラック』

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ガイ・リッチーの映画らしからぬハードなBGMや硬派なアクション、重苦しいドラマや雄々しいキャラクターが特徴的な作品だ。

 

主演のジェイソン・ステイサムはあまり好きな俳優でないのだけれど(そういう役ばっかり演じるから仕方がないとはいえ、どの映画のどの場面でもまったく同じような仏頂面をしている気がする)、脇役のホルト・マッキャラニーは『マインドハンター』のおかげでかなり好きな役者になったので、マッキャラニー目当てで鑑賞。いざ観てみるとステイサムはやっぱり仏頂面なんだけど、敵チームのリーダーを演じるジェフリー・ドノヴァンがよかった。

 

ストーリーとしてはガイ・リッチーらしい時系列いじりを駆使しながら、第一幕では謎の新米警備員ジェイソン・ステイサムのスゴ腕っぷりをアピールしつつ(ここにはちょっと「なろう」もの的な爽快感がある)、第二幕ではステイサムの正体と目的を開示して、第三幕で敵チームに焦点を当てて、第四幕でいよいよステイサムと敵チームが対峙する(ついでに気の毒な警備員たちが巻き込まれて死にまくる)、という構成だ。

序盤では「ステイサムの正体はなんなのだ?」という「謎」が示されて、それが中盤にもならないうちに明かされたと思ったらこんどは「敵チームの協力者はだれだ?」という新たな「謎」が示されることで興味が持続する、という構成はうまい。

息子の仇をとるつもりで関係のないチンピラを拷問したり人身売買組織をついでに壊滅してしまうステイサム・チームの暴れっぷりは「シリアスな笑い」的な面白さがある。「強盗に行く途中に酔っ払い運転に巻き込まれて事故に遭いました」という理由でボスの息子が死ぬ原因をつくった部下が処刑されていないというのも、リアルに考えたらそりゃ仕方がないんだからそうなるんだろうけれど、映画としては妙な緩さがあって、バイオレンスな展開がまた面白い。

敵チームの描写に関しても、短い範囲でリーダーの魅力や事情、「元軍人」であることを強調したプロフェッショナルっぷりをかっちり描いて、感情移入させられているのが巧みだろう。

 

とはいえ、第四幕の展開にはいろいろと物足りなさがある。最大の戦犯はスコット・イーストウッドが演じる敵チーム内のサイコ野郎で、こいつが裏切ってドノヴァンやマッキャラニーを殺してしまうことで、ステイサムによる復讐がかなりショボくなってしまうのだ。また、こんなサイコ野郎をチーム内に温存していた敵チームのリーダーの格も下がってしまう。見た目がまんま「サイコ野郎」というのも小物っぽさを醸し出している。息子を直接に殺した犯人を最後の最後で父親のステイサムが殺し返す、というのは様式美であるが、ここはズラしをくわえたほうがよかったと思う。

イーストウッドよりも、長年一緒に働いていた同僚を騙して容赦なく撃ち殺すマッキャラニーの悪役描写のほうが、よっぽど冷酷でプロフェッショナルで、魅力的だ。映画内のステイサムの主観としては息子を殺したイーストウッドのほうに対して因縁を感じているわけだけれど、映画を見ている観客としては、第一幕でずっとステイサムと一緒に行動していたマッキャラニーと対峙してくれるほうが因縁めいていて面白くなったはずである。

 

また、ステイサムの「ヤバさ」の描き方も中途半端で、金庫の襲撃戦の時点では敵チーム6人中2~3人しか倒していないのもどうかと思うし、一緒に行動していたマッキャラニーが「ヤバいやつがいるから襲撃はやめよう」とならずにふつうに計画を続行するのもかなりヘンだし矛盾しているように思える(だって第一幕の最後で「悪霊」とまで言ってるじゃん。この描写があるから、マッキャラニーは裏切り者ではないだろうと思ってしまった)。そして前述したようにドノヴァンやマッキャラニーが内輪もめでやられちゃうせいで、「ステイサムvs敵チーム」という構図が雲散霧消しちゃうのだ。