THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『デッド・ドント・ダイ』:ゾンビ映画パロディのコメディ映画だけどコメディがダダ滑り

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 TOHO日比谷の先行上映で鑑賞。ファーストデイで安く鑑賞できたのでよかった。他にも観たい映画はいくつかあったが低気圧による頭痛のために体調的に鑑賞できるのは一作品までが限度だったので、上映延期となりいまのうちに観ておかないと次にいつ観れるかわからない『デッド・ドント・ダイ』を観ることにした。しかしまあ結果としては「ひどすぎる」という程の作品ではないにせよわざわざ劇場で見る価値は特にない作品であった。

 

 ジム・ジャームッシュ監督でアダム・ドライバー主演の『パターソン』コンビだ。ジム・ジャームッシュの作品は10代の学生であった頃に『ストレンジャー・ザン・パラダイス』や『ミステリー・トレイン』を観て、それなりにビビっとはきたがファンになったわけではなく、それ以来10年くらい観てこなかった。しかし最近になって配信サイトで『パターソン』を観てみるとその「文学っぽさ」にかなり惹かれて、なかなか良いものだと思えた。しかし、『デッド・ドント・ダイ』には惹かれるものがなかった。

 

 ゾンビ映画…というよりもゾンビもののパロディ映画ではあるが、ゾンビが出てくるまでの平常通りの町中の空気感を描写している序盤のパートが断然面白い。ゾンビが出てきてからは「ゾンビものやB級映画あるあるネタ」やメタフィクション的なネタが出てくるのだが、これがとにかくスベっていて面白くないのである。アダム・ドライバーにひっかけてスターウォーズネタを出してきたりするところは同じく主演のライアン・レイノルズをいじり倒す『デッドプール』を思い出したが、ヘタに『デッドプール』を連想させてしまうぶん、メタネタの出来栄えの差が如実にあらわれていて痛々しかった。終盤の「台本を読んでいた」云々のシーンやUFOが出てくるシーンも完璧にスベっており失笑ものだ。こういうことを言うのもよくないかもしれないが、いかにも才能の枯れた老人が撮ったコメディ作品という感じがする(同じくアダム・ドライバー主演の『テリー・ギリアムのドン・ギホーテ』にも同じような"才能の枯れた老人の撮ったコメディ"という感じがあった)。劇場ではなぜかギャグのたびに爆笑が聞こえてきたが、平日の真っ昼間という時間帯から考えて観客たちにも老人が多かったのであろう。

 ただし、ゾンビが本格的に大量出現するまでの序盤の空気感や会話の掛け合いのユーモア感は普通に良い。アダム・ドライバーのなんともいえない他人事感やソシオパス感も本人ののっぺりした顔付きや喋り方とマッチしていて、かなり良い。ゾンビが登場してからであっても、アダム・ドライバーが主要人物になりそうな感じで登場してきたティーエイジャーの女の子の死体の首を容赦なく切断するくだりも面白かった。

 

 ところでゾンビもののコメディ映画といえば『ショーン・オブ・ザ・デッド』が有名であるだろうが、私はいくらブラックコメディ映画であっても登場人物が惨たらしい死に方をする映画ではあんまり楽しい気分にはならない。個々のギャグでは笑えるとしても、登場人物の死に様までをもギャグにされてしまうと、観終わった後になんともいえない嫌な気持ちを抱いてしまうことが多いのだ(だから『キングスマン』みたいな作品も嫌いだし、『ファイナル・デスティネーション』みたいなB級ホラー作品は軽蔑して遠ざけている)。しかし『デッド・ドント・ダイ』では『ショーン・オブ・ザ・デッド』ほどには嫌な気持ちにはならなかった。それは『デッド・ドント・ダイ』が優れているからということでは全くなく、単純にこの作品があまりにメタ的でドライな作風になっているために、登場人物に対する感情移入や共感などが全くなかったからである。ここの点はわたしにとっては良かったことであるが、だからといってそれがこの作品を優れたものにしているわけでもない。

 

 また、最近のハリウッド作品はどれもそうなのでいちいち指摘していてもキリがないことではあるが、この映画でも「無知で粗野で排他的な共和党主義者の人種差別的白人」が「どんなにひどい目にあったり死んだりしても仕方がないようなロクでもない人間」として描かれている。作中の扱い的に、製作陣も特に考えや意図を含んだうえで彼を登場させたわけではなく、「こういう奴はこういう風に扱うのが定番だろう」といった手癖で考えなしに登場させている感じがあった。『ナイブズ・アウト』のときにもしつこく指摘したが、ハリウッドのこういうところは明確に差別的で反知性的で部族的である。メッセージ性が明確な『ナイブズ・アウト』に比べて、特に深いメッセージもない「ゆるい」コメディ作品にもこういう描写がある点が、問題をより深刻なものにしていると言えるだろう。