THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『ラッキー』

 

ラッキー(字幕版)

ラッキー(字幕版)

  • 発売日: 2018/12/05
  • メディア: Prime Video
 

 

 90歳である元海兵の偏屈老人、ラッキー(ハリー・ディーン・スタントン)が「死」を意識してそれについて考えるようになりながら、昔馴染みの町の人々との日常的なやり取りを続ける映画。

 主人公が老人であり「死」をテーマとした映画であるが、『生きる』みたいに主人公の死期が定まっているわけでもなく、終活などの具体的な活動もしなく(むしろ、ラッキーは終活を否定している)、そもそも家族も恋人もいないので劇的な会話やコミュニケーションっが発生するわけでもなくて、淡々と日常が続いていく。そういう点ではけっこう変わった映画だ。

 同じように老人を主人公とした地味なミニシアター系映画としては最近では『ザ・ヒーロー』を観たが、あちらは変にシリアスであるし自己陶酔的な作りになっていってしょうもなかった。それに比べるとこちらの映画の主人公であるラッキーは人生で大したことも成し遂げられていないが内向的でありながらも可愛らしく愛嬌のある人柄をしているし、他の老人たちもなかなかいいキャラクターをしている。他愛もない会話ばっかりであるが、好感を抱きながら見ることができるのだ。特に、買っていたリクガメの脱走を気にして口を開けばリクガメのことばっかり語るハワード(デヴィッド・リンチ)が素晴らしい。役者が役者なだけに、妙な迫力や説得力があるのだ。「ルーズベルト大統領(リクガメの名前)はやるべき用事があったから自主的に外に出たんだ」と結論付けてハワードが納得するシーンもいいし、エンドシーンのあとにルーズベルト大統領がひょっこりと顔を出すところもあざといが気が利いている。リクガメと同じくらい年齢を重ねているサボテンのことをラッキーが見つめるシーンなど、人間よりも高齢な生物たちの存在が強調されることで、死や老いが相対化されて悲壮感がなくなっているところも良い演出だ。

 ユーモアもほどほどでいい感じ。同じく老人が監督した「ゆるさ」がウリのユーモア映画といえば『デッド・ドント・ダイ』があるが、あちらはギャグがだだ滑りしていたのに対して、こちらはちょうど良く抑制が効いているのだ。

 ……とはいえ、わたしが楽しめたのはもともと期待せずに見始めたからであり、あくまで「ゆるい」作品であるからそれほど大した作品であるわけではない。現実主義がどうこうとか物質がどうこうとかの観念的な議論のパートは実にどうでもいいもであるし、戦争の思い出話もちょっとありがちに過ぎる。けっきょくラッキーが「死」についてどういう結論をくだしたのか(あるいはくださなかったのか)ということにもさほど興味が持てなかった。良くも悪くも、あくまで「日常系」な作品である。