THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『アナと雪の女王』

 

アナと雪の女王 (字幕版)

アナと雪の女王 (字幕版)

  • 発売日: 2014/07/09
  • メディア: Prime Video
 

 

 公開当時には大ヒットした作品であるし、ディズニーらしい安定の面白さがある。しかし、『塔の上のラプンツェル』『ズートピア』に比べると、どうにもこの作品には惹かれるところが少ない。

 この映画ではアナとハンス、アナとエルサ、そしてアナとエルサとの関係が主軸となる。つまり、アナを中心にして、偽の異性愛と真実の家族愛、そして真実ではありそうだがさほど重要視されない異性愛とが描かれるのだ。作中でメインのテーマとなるのはアナとエルサとの関係性ではあるが、アナとハンスやクリストフとの関係性も結構な尺を取りながら描かれる。そのために、焦点がぶれている。

 物語の後半でアナはエルサの魔法によって体の内側から凍って死にそうになり、そこで「真実の愛が氷を溶かす」という情報が明かされるわけだが、ハンスやクリストフというキャラクターは「アナの氷を溶かす"真実の愛"とはエルサの愛だった」という展開に驚きを与えるためのミスリーディングの道具となっているフシが強い。ハンスは、悪役として本性をあらわして裏切る展開がけっこう衝撃的なのでまだしも印象に残る。しかし、クリストフはかなり印象の薄い残念なキャラになってしまっている。ついでに言うと、賑やかし役のオラフもブサイクでウザったくて可愛くない。……そして、これらのキャラクターの描写に尺を取ってしまうために、肝心のエルサの描写が薄くなってしまうのだ。

 画面に関しては、CGを駆使した氷の描写はすごいものだし、エルサの力が暴走するシーン以降は大半の場面で「雪」や「氷」を強調した寒色と白色を中心とした色彩となることは、作中の設定や展開に沿った一貫した絵作りをする、という意図が感じられてよかった。

 

 吹っ切れて自分のために力を使うことにしたエルサがLet it goを歌うシーンは優れた楽曲にセンスオブワンダーな映像が合わさって段違いの魅力があるが、逆に言えばLet it goのシーンだけをYouTubeで見ればこの映画の面白さの大部分が味わえてしまうんじゃないか、と言う問題がある(とはいえ、これはどのミュージカル映画にも多かれ少なかれ当てはまることだ)。…また、Let it goのシーンばかりが観客の記憶に残ってしまう問題に象徴されるように、物語の主役は明らかにアナであるのに印象的なシーンはエルサに独占されているのだ。だがエルサはあくまで脇役に過ぎないので、アナほどには成長が描かれているわけではないし、アナ以外の人物たちとの関係性もほとんど描写されていない。しかしアナはエルサの影に隠れて印象が薄れるから、けっきょく物語のメインとなる部分が曖昧になってしまうのだ。

 

 とはいえ、年のわりにケバケバしい顔をしたエルサはちょっと苦手だが、アナはまあまあ可愛らしいヒロインである(ラプンツェルには及ぶべくもないが)。いかにも朴訥な田舎者といった顔をしたクリストフはあんまり格好良いとは思わないが(ユージーンやニックの方がずっと格好いい)、ハンスは善人を演じているときの凛々しさが際立っていたからこそ悪役としても印象に残るキャラクターとなっている。

 一部のピクサー映画のように最初から最後まで予想の付く展開にはなっていないし、それぞれのキャラクターたちの美点や欠点、彼女たちなりの葛藤と成長をちゃんと描けている作品である。少なくとも「子供だまし」な感じは全くしない、きちんとしたヒューマンドラマを描けてはいるのだ。その点では、なんだかんだ言って、さすがディズニーのヒット作だ。