THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『塔の上のラプンツェル』

 

塔の上のラプンツェル (字幕版)

塔の上のラプンツェル (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 マーベル映画を一気に観返そうと思ってディズニー・デラックスの無料期間を試したわけだが、せっかくだからマーベル以外の作品も見ようとピクサーの作品スターウォーズ系の作品などを観てみたはいいものの、どれもさほど面白くなく、「所詮は子供だましか…」とがっかりしていたところだった。

 しかし、この『塔の上のラプンツェル』は滅法に面白い。2011年の日本公開当時に劇場に観に行っていており、そのときも面白いと思った記憶はあるのだが、改めて観てみると、完成度の高さや絶妙なキャラクター造形やテーマの描写の上手さに驚かされてしまう。

 

 まず、なによりもラプンツェルが魅力的だ。その超長髪の金髪を駆使しながら塔の中で日課の趣味をこなすオープニングシーンの絵面の時点で作品に引き込まれてしまうし、初めて塔の外に出て髪をたなびかせながら元気一杯に駆け回った後に落ち込むことを繰り返すシーンも実によい。初めて訪れる酒場や町中で注目の的となるところなどはまさに「お姫様」という感じだ。そして、フリン・ライダー=ユージーンと知り合って恋に落ちていくところやキスシーンなどには、昨今のディズニー映画のヒロインにはないような女性としての魅力が溢れている。ユージーンに対して見せる表情や肌の露出の具合もけっこう性的であり、18歳とはいえ一応は未成年であることを考えると、現在のディズニー映画ではこのような描写はNGとなってしまうだろう。

 フリンのキャラクター性も良く、ラプンツェルの添え物にとどまらない活躍をしており、好感が抱ける。二枚目のプレイボーイな気障男という設定でありながら全く不快感がないし、戦闘力や特殊能力がそこまで無いかわりにラプンツェルに対する気遣いや愛情から適切な行動をとって活躍をする、という塩梅が実に絶妙だ。特に、クライマックスにおける最も重要な決断を下すのが彼であるというところが意外性もあって劇的だ。ラプンツェルとのラブロマンスが照らいなく直球の表現でしっかり描かれている点もよい。これまた、昨今のディズニー映画では、主人公が女性である場合には男性の準主人公にここまでの活躍を与えることは許されないだろうという気もする。ラブロマンスだってストレートなものは描かせてもらえないだろう。

 酒場でのミュージカルシーンも、最初はミュージカルのパロディ風に始まりながら曲が終わる頃にはしっかりミュージカルになっているところが、新しさやメタ要素をほんの少しだけ入れつつも王道ファンタジーを貫くこの作品のスタンスを象徴している。白馬のマキシマスや酒場の荒くれ者たちも、脇役ながらここぞというところで活躍するおいしいキャラクターをしており、この作品の楽しさに貢献している。

 そして、この作品を特に印象的なものにしているのは悪役であるゴーテルと主役であるラプンツェルとの関係性であるだろう。ゴーテルはラプンツェルを誘拐した張本人である一方で18年間彼女の世話を育てていたことは間違いなく、二人の間には母娘的な関係性が間違いなく築かれている。しかし、序盤における二人の会話を聞いていればわかる通り、ゴーテルはラプンツェルに対する誠実性は全くないし、一見すると彼女を思っているようでありながら実は私利私欲に基づいたものに過ぎないセリフをいけしゃあしゃあと吐いてのける。娘が異性(ユージーン)と築いた関係性を引き裂いて娘を自分に依存させ続けようとすることなど、その行動は完全に度を過ぎた「毒親」のものである。進退窮まったあとには自分がラプンツェルのことを魔力を搾取する道具だと見なしていたことを本人の前で明言してしまうところといい、直接的に他人を害するシーンがあまりないから目立たないだけで、ゴーテルの自己中心性や悪人っぷりは相当のものだ。クライマックスでゴーテルが死んでしまうことについて「憐れだ」「そんなに悪人ではないから可哀想だ」という意見を抱いた観客も多かったようだが、それは、ゴーテルがラプンツェルを騙し続けていた演技に対して観客も騙されてしまったということに過ぎないだろう。……とはいえ、ラプンツェルが直接ゴーテルを攻撃するのもやり過ぎであるので、事故的にゴーテルが死ぬことになるのはいい落とし所であると思う。

 ラプンツェルが実の両親と再会して脇役たちの夢も叶ってユージーンとラプンツェルが結婚してめでたしめでたし、という直球過ぎてやり過ぎなくらいのハッピーエンドも、"あえて"の王道を貫くという意図によるものだろう。

 最初から最後まで楽しくて、見終わった後には充実感が抱ける作品だ。ディズニーの歴代作品の中でも最上クラスであることは間違いない。