THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『007/スペクター』

 

 

theeigadiary.hatenablog.com

 

 

 上の記事を書いたときには『スカイフォール』のことをそんなに評価していなかったけれど、『スペクター』を観る前に視返したところ、やっぱり面白かった。「これやるならMCUでいいだろ」という気持ちはまだ持っているものの、ハビエル・バルデム演じるシルヴァのキャラクター性はやはり特出している。長尺のセリフをすらすらと喋りながら縛られているボンドのほうに徐々に接近してくる初登場シーンの演出は見事なものだし、クライマックスに至るまでメタっぽいセリフを吐き続けるところには批評性も感じる。また、地下道を爆発させて電車をボンドに激突させようとする場面には迫力もあるし、ヤバい事態になっても皮肉を効かせながらベン・ウィショー演じるQとユーモラスな会話をするダニエル・クレイグジェームズ・ボンドの魅力も引き立てられている。

 

 とはいえ、世評の悪い『スペクター』についても、わたしは『スカイフォール』と同じくらい魅力的であると思う。たしかに満を辞して登場した悪役のスペクターは、せっかくクリストフ・ヴァルツという名優を使っているのに、シルヴァに比べるとずっと魅力に欠けるキャラクターだ。なんかもうただの典型的なボス敵でしかないし、そんな彼がボンドと義理の兄弟であることが判明したうえに過去三作の出来事もすべてスペクターが仕組んだことだと言われたら、世界があまりにも狭くなって実にガッカリ感が漂う。ボンドを拷問するシーンの小物っぽさもひどい(ボンドが猫に挨拶をして余裕を示すくだりは魅力的だけれど)。長テーブルでの会議シーンで顔が見えない状態でもってまわったセリフを吐くところには悪役としての貫禄が感じられるけれど。

 しかし、冒頭においてQに対して無言のパワハラをボンドがおこなうシーンや、前半におけるデビッド・バウティスタとのカーチェイスなど、前作以上にユーモラスでコメディあふれるシーンがたっぷりなところは実に楽しい。つまり、『スペクター』は『スカイフォール』と比べて、あえて「軽め」に作られているのだ。砂漠に停車した電車から降りたボンドとヒロインをロールスロイスがノタノタと迎えにくるシュールなシーンとか、研究所が馬鹿みたいに大爆発してボンドとヒロインがポカーンとするシーンにも、それが示されている。だから、ボス敵が描き割り的でしょーもない存在であることも意図的なものかもしれない。

 その一方で、オープニングにおけるメキシコの「死者の日」を背景にした追跡シーンは実に見事であり何年経っても印象に残る。爆発する建物からクルーザーで脱出するシーンなど、キメるところはきちんとキメてくれるところも好印象。

 人妻のモニカ・ベルッチもいいけど、ヒロインのレア・セドゥも実にヨーロピアンで綺麗で可愛らしくて魅力的。『カジノ・ロワイヤル』のエヴァ・グリーンのときと同じく、気が付いたらボンドがゾッコンのメロメロになっており彼女のためにガンガン命を賭けられるようになっているところには「いつの間にそんなに惚れちゃったの?」と思ってポカンとするところもあるんだけれど。でもわたしもレア・セドゥとしばらく一緒にいたら惚れちゃうと思う。