THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『ザ・ファイブ・ブラッズ』

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 原題は『ダ・5・ブラッズ』(これくらい原題通りのタイトルにしてしまえばいいと思う)。スパイク・リー監督による、ベトナムに従軍した黒人兵士たちの物語。マルコムXキング牧師を思い浮かばせるカリスマ的な隊長ノーマン(チャドウィック・ボーズマン)の元で戦争を戦い抜いた4人の黒人兵士たちが、体調の亡骸、そして戦時中に発見した黄金を回収するために、トランプ当選後の現代になってから、ベトナムに舞い戻る。

 戦争によるPTSDに苦しみ狂気的になっているポール(デルロイ・リンドー)、知性派で4人の中ではリーダー格なオーティス(クラーク・ピーターズ)、財布役でお人好し感の漂うエディ(ノーム・ルイス)、いまいち特徴のないメルヴィン(イザイア・ウィットロック・J)たちのもとに、計画を嗅ぎつけたポールの息子デヴィッド(ジョナサン・メイジャーズ)も加わる。そしてめでたく金塊を発見できた5人であったが、その金を自分たちのために使うかノーマンの遺言通り黒人解放運動に使うかで意見が割れて、内紛が起こる。

 そこで戦争の爪痕である地雷が原因の悲劇的な死が起こり、さらには地雷処理ボランティアの若者たちや現地の元兵隊たち、強欲なフランス人たちも金塊を狙って集まり、血で血を争う事態になってしまって……。

 

 冒頭はポールのPTSDが描写が不穏さを放っているとはいえスパイク・リー監督お得意の「ブラック・カルチャー・あるあるネタ」や政治状況に対するジョークや『地獄の黙示録』のパロディなどを交えながら比較的のびのびとすすんでいくために、「ゆるい雰囲気の映画なのかな」と思わされてしまうが、それゆえに後半の殺し合いになる展開はちょっと衝撃的だ。黒人同士の"連帯"を強調するわけでもないところも意外(けっきょく最後はそういう雰囲気になるものの)。

 殺し合いになってからは展開がけっこうグダグダになってしまい、けっして完成度の高い映画ではないと思うが、オリジナリティはしっかり感じられる。また、戦後のPTSDベトナムに種を残してきた子供たちの話なども含めて、2時間半という尺をしっかり使って「ベトナム戦争に従軍させられた黒人兵士」というテーマを様々な側面から濃密に描いている(だとしても2時間半は長過ぎると思うが)。深刻になり過ぎず軽快なタッチであるし、普通の作品ではなかなか俎上にあがらず意識できないような問題を取り上げて物語にしてくれるだけでも、価値があるというものだ。ベトナム戦争時のシーンと現代パートとの映し方の違いをはじめとして工夫や遊び心も大いに感じられて、いいと思う(終盤における『地獄の黙示録』パロディはちょっとしつこいと思ったが)。 

 終盤で露骨にBLMという現代的な事情に繋げてくるところも、作品の完成度という点では明らかにマイナスだし、たとえばこれが他の作品を押し抜けてアカデミー作品賞を獲得するとなったら文句を言いたくなるが、他の監督たちが撮る作品とは全然「違う」作品であることは確かだ。同じような作品ばっかり見させられるよりも、こういう作品があったほうが全然いい(『ブラック・クランズマン』もわたしのなかでは同じようなポジションの作品だ)。

 それに、BLMをはじめとした黒人差別の問題について色々と考えさせられてしんみりしたり居心地が悪くなったりしたこともたしかだし。北ベトナム側が、プロパガンダとして黒人兵士に対して白人への抵抗を呼びかけるラジオを流していたというエピソード(そこで主人公たちはキング牧師の死を知らされる)は、実に印象的だ。

 

 俳優という点では、主要メンバーのなかではチャドウィック・ボーズマンはもちろんのこと、 クラーク・ピーターズとノーム・ルイスとジョナサン・メイジャーズが良かった。また、悪役としてジャン・レノが出演しているところも良いし(ジャン・レノなんて見るのも久しぶりだ)、ちょい役として出てくるポール・ウォルター・ハウザーも相変わらず強烈な存在感を放っている。

 戦争が舞台なだけあって、女性の存在感のなさが目立つ作品であることもたしかだ。いちおうヒロイン的なポジションとしてメラニー・ティエリーが出演しているが、それよりもハノイ・ハンナを演じるェロニカ・グゥの方がずっと記憶に残る。また、この作品におけるベトナム人たちはアメリカ内部の人種差別問題のとばっちりを受けるような形で殺される存在であり(それ自体がベトナム戦争の再現とも言えなくもないが)、現地の人からすれば気分の良くない作品であることはたしかだろう。まあでも、全方位に配慮した作品にしてしまうと肝心のメッセージが薄れてしまうのだから、仕方がないことなのだろう。