ひとこと感想:『復讐するは我にあり』&『呪われた死霊館』
●『復讐するは我にあり』
学生時代に見たときに、いくつかのシーンが強烈に印象に残った作品だ。主人公の榎津巌(緒形拳)が東京で知り合った弁護士の老人を世話になっておきながらあっけなく殺害してその死体をタンスに入れておく場面は衝撃的だし、風呂場における榎津鎮雄(三國連太郎)と加津子(倍賞美津子)の濡れ場もすごい。主人公の嫁を主人公の父親が寝取る、というのもなかなかひどい。
物語の後半で主人公が親しくなる浜松の宿屋の女将ハル(小川真由美)はあまり印象的な人物ではないが、その母親(清川虹子)は本人にも後ろめたい過去があるぶん他の人物よりも榎津巌の人間性を理解できるという面白いキャラクターになっている。また、根岸季衣が演じるステッキガール(派遣型の風俗嬢のこと)も、脇役でありながら印象的だ。昭和における浜松の風俗が描かれるところか登場人物たちが浜松弁を喋るところも独特でいい。
……のだが、改めて見返してみると、けっこうダラダラとした作品である。初見のときには近親相姦の要素やあっけない殺人の要素に衝撃を受けたのだが、それを知った状態で再視聴すると、単調さや退屈さが見えてくる作品だ。昭和の名作映画というものはどれも人物や空間が生々しくて強烈なインパクトを持ちつつストーリーは余計な要素抜きにシンプルに仕上がっているものだが、この映画はやっぱりストーリーがあまり練られていないように思える。冒頭はいいし、終盤に主人公が死の間際に父親と対話するシーンとかそのあとに息子の骨を海に撒いてしまう父親のシーンなどもいいのだが、中盤の間延び感は否めない。
●『呪われた死霊館』
『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』でエイミー役を演じていたフローレンス・ピューが素晴らしかったので、彼女が主演であるこの作品を鑑賞。
……だが、Netflixオリジナル映画のなかでも際立ってつまらない一品だ。「心霊現象を偽装して金をだまし取る詐欺行為を行っている兄妹だが、妹の方が本当に心霊が見える能力に覚醒する。そんななかで彼らが次の詐欺の標的に選んだ家は、実際に幽霊が住んでいる家だった。さらにその家の主人である老婦人は実はサイコなキラーで…」という、心霊要素と殺人要素が混ざっていて面白くしようと思えば面白くできそうな設定であるのに、見事になにも面白くない。味方側にせよ敵側にせよ登場人物の描き方に工夫がまったくないし、演出も凡庸だし、プロットの展開も退屈だ。ひたすら、やる気が感じられない映画になっている。
そして肝心のフローレンス・ピューも、この映画ではイマイチ精彩に欠ける。ムチムチしているが野暮ったい女子大生、という感じしかしない。演技力を発揮できるような場面もないし(こんな酷い映画を撮る監督だから演技指導もロクにやっていないだろうし)、ダサい服を着させられていてかわいそうだった。