THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『プロミスト・ランド』

 

プロミスト・ランド

プロミスト・ランド

  • メディア: Prime Video
 

 

 ガス・ヴァン・サント監督の作品。

 シェールガスの採掘権を買いに田舎町にやってきたエネルギー会社の社員であるスティーヴ(マット・デイモン)が主人公。スティーヴの同僚のスー(フランシス・マクドーマンド)、小学校教師のアリス(ローズマリー・デウィット)、シェールガス採掘に反対する理系の高校教師のフランク(ハル・ホルブルック)、そして環境団体の職員を名乗りスティーブやスーの活動を邪魔するダスティン(ジョン・クラシンスキー)などの人物が登場する。

 話としては地味であるし、最後の展開はご都合主義的であり感傷的に過ぎる、という批判もあるだろう。シェールガス採掘の環境汚染の問題に取り組んでいる風でありながら、微妙にそこはごまかして別の面での会社の不正に話をずらしているところも、「逃げ」と見なしていいかもしれない。

 しかし、ヒューマンドラマとしては実によくできている。都会っぽさと素朴さが同居しており、正義感も繊細さも俗物っぽさも平凡さもすべて兼ね備えている主人公の役柄は、マット・デイモンじゃないと演じられないだろう。マット・デイモンは「際立った特徴はなく、美貌もカリスマもないが、明らかに"主人公"という雰囲気を放っている」という点で実に稀有な俳優だ。そんな彼の繊細な演技をずっと眺められるだけでも価値がある。

 のちに『スリービルボード』でアカデミー賞主演女優賞を獲得することになるだけあって、フランシス・マクドーマンドの演技もめっぽうにうまい。ビジネスとプライベートを分けて、年少の男性上司であるスティーブに苛立ちながらも気にかけて面倒を見てしまうスーの役柄を、しっかり演じられている。そして、明らかに「裏がある」が人懐っこく町の人に取り入って籠絡してしまうダスティンを演じるジョン・クラシンスキーも、なかなかの魅力だ。ハル・ホルブルックも理系のおじいちゃんという感じは漂っている。キャストは失念したが、脇役である悪徳町長もいかにも「あくどい小物のおっさん」という感じが出ていた。

 バーでの「狂気の沙汰」からスティーブがアリスの家で目覚めるシーン、町の住民を懐柔するための野球試合や即席の遊園地が雨で台無しになるシーン、ガス会社に対する不信を語る住民たち、ダスティンがバーであっという間に住民たちの信頼を得てしまうシーン、そしてクライマックス直前における25セントでレモネードを売りチップの受け取りを拒む少女のシーンなど、印象的なシーンが実に多い。まさに「よくできた映画」という感じである。

 ガス・ヴァン・サント監督のことはこれまであまり意識していなかったし、『ドント・ウォーリー』なんかも「悪くないしいい作品だけど地味さが上回るかな」と思っていたが、『プロミスト・ランド』はとても良かった。

 

 余談だが、同じくガス・ヴァン・サント監督の『マイ・プライベート・アイダホ』も観てみたが、こちらは性描写の生々しさや90年代以前の「青春もの」に特有のスロー過ぎるテンポに青臭さなどが目立って、受け付けなかった。そういえば『グッド・ウィル・ハンティング』も、学生時代に観たときには妙に気に入らなく感じた思い出がある。これはいま観てみると違った評価になるかもしれないが。