THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

ひとこと感想:『殺人狂時代』、『マーウェン』

 

●『殺人狂時代』

 

 

殺人狂時代

殺人狂時代

  • 発売日: 2015/07/01
  • メディア: Prime Video
 

 

 おなじ岡本喜八監督作の『日本のいちばん長い日』はシリアスな題材を描き切った名作であったが、ブラックでスラップスティックなコメディ作品であるこちらは「賞味期限切れ」という感じが漂う。冒頭から登場する狂人たちのシーンは悪趣味で不愉快だし、続々と登場する殺し屋もケレン味があって印象的ではあるがそれだけだし、コメディはまだるっこしいし登場人物に特に魅力があるわけではない。

 とはいえ、オープニングのアニメーションのオシャレ感や、小川安三が演じるトランプの殺し屋の不気味さはなかなかのものだった。

 

●『マーウェン』

 

 

マーウェン (字幕版)

マーウェン (字幕版)

  • 発売日: 2020/01/24
  • メディア: Prime Video
 

 

 

 ロバート・ゼメキス監督の作品。

 バーで数名の男性に暴行されて頭部に重傷を負って記憶障害になり、成人期以降の記憶をほとんど喪失してしまったマーク・ホーガンキャンプ(スティーヴ・カレル)が主人公。彼は、セラピーとして、第二次世界大戦中の架空の村「マーウェン」をミニチュアで作り、さらに自分を投影した「ホーギー大尉」と大尉を取り巻く女たちやナチスの人形を用いて本格的な戦争活劇を妄想していた。人形遊びを通じて少しずつ心や精神の安定を取り戻していったマークであったが、自分を暴行した加害者たちの裁判に出廷する勇気はまだ持てない。そんな折に、美しい女性のニコル(レスリー・マン)が隣に引っ越してきて……。

 ロバート・ゼメキス監督の保守性はよく指摘されるが、実話をもとにしているこの作品でも、それは感じられる。

 ホーギー大尉が活躍する人形劇パートは最初の3分間くらいは面白いが、あまりに単調でありきたりなこの冒険活劇が延々と続くせいでうんざりするし、ホーギー大尉を取り巻く女性たち(人形だけど)のキャラクター描写は奥行きも人間性もあったものではなくてジェンダー的に最悪だ。あくまでマークのセラピーのための人形劇なので、その内容が浅いものであったり幼稚なものであったりすることも意図的なものではあるかもしれないが、じゃあダイジェスト的に紹介すればいいのであって作品時間の半分近くをこのつまらない人形劇に割くべきではない。そして、人形劇に尺を取られたせいで、現実世界におけるマーウェンと彼を取り巻く人々のヒューマンドラマも満足に描けられなくなっている。

 また、ニコルの元ボーイフレンドの露骨で浅はかな悪人描写も気になるところだ。『コンタクト』でも『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でもそうだったが、お話を展開するためだけに幼稚で奥行きのない悪人を登場させるところが、わたしがロバート・ゼメキスを苦手とする理由である(そして、この素朴な善悪感や、エンタメやストーリーの都合で人間描写を捨象するところにも、ゼメキスの保守性があらわれていると思う)。