THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

ひとこと感想:『マイル22』、『プロジェクト・パワー』、『バットマン』、『デス・ウィッシュ』

 

 さいきん観たなかで面白かった作品については個別に感想を書いてしまったので、つまらなかったものの感想をこちらにまとめる。

 

●『マイル22

 

 

マイル22(字幕版)

マイル22(字幕版)

  • 発売日: 2019/07/12
  • メディア: Prime Video
 

 

 CIA分析官ジェームズ・ビショップ(ジョン・マルコヴィッチ)が統率する極秘部隊"オーバーウォッチ"に所属する、優秀だが精神に問題があって暴力傾向の激しいジェームズ・シルバ(マーク・ウォールバーグ)は、いろいろあってリー・ノア(イコ・ウワイス)という東南アジアの小国の工作員を護送することになる。シルバの戦闘能力もかなりのものだが、リーの格闘能力は超人的なものだった。とはいえ、リーの命を狙う工作員はひっきりなしにオーバーウォッチに襲いかかり、目的地まで22マイル(約35km)しかないというのになかなか辿り着けない。刺客を撃退しているうちにシルバとリーの間には信頼関係のようなもの芽生えはじめるが、しかし実は……。

 なにしろマーク・ウォールバーグ演じる主人公に魅力がないのが困りものだ。マーク・ウォールバーグ自体、『ゲティ家の身代金』『ブギーナイツ』での役柄は良かったものの、そもそも顔や声にあまり魅力のある俳優ではないから、怒鳴り散らしていてキレっぱなしの今作のようなで役柄を演じられるとかなりキツイものがある。映画としても銃がパパンパパン爆発ドカンドカンみたいな、緊迫感やテンポ感はあるものの見飽きたような戦闘シーンから始まるので、なかなか興味が抱けない。同じピーター・バーグの『パトリオット・デイ』や『バトルシップ』にもあったナショナリズム感やアメリカ感の押し出しにも胸焼けがする。

 このブログでは「アメリカ映画はリベラル側の価値観を反映させた作品ばっかりで保守の価値観を反映させた作品が少ない」といつも文句を言っているが、いざ保守的な作品をお出しされると大概の場合はつまらない、という問題があるのだ。『ファーザーズ』もそうだが、保守的であることとダサいことや単純なことはイコールではないはずなのだから、もっと洗練されたものを作ってほしい。

 ……と、文句たらたらで見ていたが、イコ・ウワイスが身体検査中に刺客に襲われて撃退するシーンのアクションがなかなか鮮やかであり、そこには惹きこまれた。そして、彼が最後に引き起こす展開も衝撃的で、全体としては決して面白い映画ではないのだが最後は「やられた」という感じである。イコ・ウワイスはルックスもイケメンだし、マーク・ウォールバーグの何倍も魅力的だった。次回作ではこの二人が戦うことになりそうだが、わたしはイコ・ウワイスの方を応援する。

 

●『プロジェクト・パワー』

 

www.netflix.com

 

 飲むと5分間だけ超人的な能力が身につくお薬、"パワー"をめぐって、特殊舞台出身の元兵士のアート(ジェイミー・フォックス)、正義感溢れる警官のフランク(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)、パワーの売人をやっていた少女ロビン(ドミニク・フィッシュバック)が協力して、パワーの供給元である組織に立ち向かうお話。

 アートの娘は組織に囚われており、ラストもアートがキメるので、彼が主人公で他の二人が準主人公と言っていいだろう。ジェイミー・フォックスには主人公らしい貫禄がある一方で、ジョセフ・ゴードン=レヴィットは「準主人公」とか「相棒」といった立ち位置が実に似合う俳優である。真面目で堅実な仕事人であったり(『インセプション』)、正義感に溢れる警官であったりするのだが(『ダークナイト:ライジング』)、どうにも弱々しくて頼りなく、キメのシーンは主人公に任せるしかない……それくらいの役柄がちょうどいい存在感をしているのだ。

 この映画自体の感想はというと、「特殊能力もの」ではあるのだが、ハリウッド映画のお決まりとして「能力バトル」は全然見せてくれない。せいぜいがアクションやバトルシーンの演出や決まり手にバリエーションを持たせるくらいの役割しか果たしていないのだ。また、特殊能力は生まれつき背負っているものではなくてお薬でお手軽に手に入れられちゃう後天的なものだから、『X-MEN』シリーズで描かれている特殊能力者ならではの苦労は描かれていない。主人公たちはあくまで元兵士や警官であり、「ヒーロー」ではないので、ヒーロー映画としての面白さもない。そうして、どうにも画面が暗いし、敵側はそんなに特殊能力を使ってくれてなかったり……と、不満点が目立つ。

 特筆すべきは、SF系的な要素のある作品としては珍しく、アメリカの南部であるニューオリンズが舞台になっていることだろう。主人公チームの過半数が黒人であり、ロビンがラップを披露したり彼女が住むアパートメントにはグラフィティがデカデカと描かれていたりとブラックカルチャーがフィーチャーされている。かといって、『ブラックパンサー』のように「黒人」「アフリカ」が物語のテーマに食い込むほどではなく、ロビンの家庭についてはアフリカ系アメリカ人ならではの経済的貧困などが背景として言及されてはいるが、どちらかといえば『Search/サーチ』のように「たまたま舞台がニューオリンズで、主人公たちは"たまたま"マイノリティ」という感じである。

 しかし、この映画は娯楽性が大したことないんだから、これだったらまだテーマ性を強調して深刻な話にしてくれた方がマシだったな……という感じだ。『ブライト』もそうだったが、NetflixオリジナルでファンタジーやSF要素のあるアクション映画って鬼門だと思う。

 

●『バットマン

 

 

バットマン (字幕版)

バットマン (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

「ダークナイト三部作」を最近すべて見返したので、流れでこの作品も見返してみたが、現在となっては「賞味期限切れ」な感じが強くてキツかった。

 バットマンを演じるマイケル・キートンよりも先にクレジットされている、ジョーカーを演じるジャック・ニコルソンの「狂気」の演じ方はさすがのものだ。能天気に踊ったり歌ったりするかと思ったらカジュアルに他人を惨殺してしまうジョーカーの恐ろしさも、後のバットマン映画では意外と描かれないものであったりする(リアルやシリアスになり過ぎて、悪役による惨殺シーンであってもあまりカジュアルに描くと世界観にミスマッチ過ぎるようになってしまったからだ)。

 アクションはいま見るとギミックが多いぶんショボさが際立つが、これは時代の流れというものなので仕方がない。ただ、アメコミ映画の文法があまり発達してなかったということもあるのだろうが、全体的に茶番劇感がひどい。また、ダークナイト三部作を見た後となると、バットマンのキャラクターの薄さや奥行きのなさもちょっと気になってしまうところだ。ノーランの映画からはバットマンに対するリスペクトが伝わってきたが、バートンからはそれが感じられないところも問題である。これも時代性の違いであって、当時としてはバットマンの世界観を忠実に反映したリスペクト溢れる作品であったのかもしれないけれど……。

 

●『デス・ウィッシュ

 

 

デス・ウィッシュ(吹替版)

デス・ウィッシュ(吹替版)

  • 発売日: 2019/02/27
  • メディア: Prime Video
 

 

 なんの変哲もない、復讐ヴィジランテもの。リメイク元である『狼よさらば』については大学生の頃に観たような記憶があるが、もしかしたら他のチャールズ・ブロンソン映画と混同してしまっているかもしれない。

 主人公を演じるブルース・ウィリスはさすがの魅力で、ヴィジランテに変貌する前の温厚な医者の演技もそれなりにうまい。病院で人を救う準備をするところとヴィジランテとして人を殺す準備をするところを同じ画面内で同時に描く演出も、わざとらしくはあるが印象的だった。……しかし、なにぶんブルース・ウィリスの表情が乏しくて、ヴィジランテに変貌する前後で表情や顔付きにあまり変化がないのはどうかと思う。

 大した内容のない作品ではあるのだが、不思議と不快感はなく、それこそ「頭を空っぽ」にして観れるタイプの作品だ。意図的にシンプルな構成にされていることは間違いなく、要素も伏線もミニマリズムの極みである。「終盤の展開への布石が他にないから、絶対こいつが黒幕だというオチだろ」と疑っていた主人公の弟(ヴィンセント・ドノフリオ)が黒幕でもなんでもないところには、逆にビックリした。

 しかし、拷問シーンを除けば悪人を殺すシーンがあまりくどくなくあっという間に済ませてしまったり、途中のテレビCMだかネット広告だかで紹介される「銃を隠す機能付きの机」の使い方もかなりさらっとしてスマートであったりと(こんな物騒なものの広告を大っぴらに流すなんてやっぱりアメリカはイカれた社会だなとは思ったが)、内容がないわりにイーライ・ロス監督の匠の技を感じさせる、不思議な出来栄えの作品である。まあ記憶に残ったり10年後に見返したくなったりするような作品では絶対にないんだけれど……。