THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『戦場のピアニスト』

 

戦場のピアニスト(字幕版)

戦場のピアニスト(字幕版)

  • メディア: Prime Video
 

 

 ロマン・ポランスキー監督作品。例によって学生時代以来の10年以上ぶりの再視聴。

 名作であることは間違いないのだが、内容的にメリハリの付けづらいストーリーが2時間半近く続くので、後半になると疲れてしまうという欠点はある。第二次大戦下でのポーランドにおけるユダヤ人たちの悲惨な運命、というシリアスで重苦しい題材が扱われているのだが、終盤に至るまで救いや感動が描かれないために作劇的としてちょっと中だるみがきついことは否めないのだろう。

 とはいえ、個々のシーンはかなり印象的だ。終盤において主人公のシュピルマンエイドリアン・ブロディ)がヴィルム・ホーゼンフェルト陸軍大尉(トーマス・クレッチマン)の前でピアノを演奏するシーン、そして戦火を生き延びて立派なピアニストになったシュピルマンがコンサートでピアノを弾き観客の拍手で締められるエンディングが、この映画の白眉であることは間違いない。

 また、ナチスの蛮行やユダヤ人たちの悲惨さを強調するシーンもかなり絶望的で非人道的であるだけに記憶にのこる。序盤において車椅子のおじいさんが窓から突き落とされるシーンと路上に伏せさせられた男性たちが順繰りに頭を撃たれて殺されていくシーンが、どちらもあまりにあっけなく人が死ぬという点で印象に残る。ゲットーの内部で飢え死にした子供の死体が何気なく映されているところや、シュピルマンの家族たちが唐突に絶滅収容所行きの列車に乗せられて運良く逃れたシュピルマン以外はもう劇中に登場しないところなども、あえて描かなかったり強調したりすることで悲惨さを演出できていると言える。

 ホーゼンフェルトのコートを借りたためにドイツ軍と間違われてせっかく生き延びたシュピルマンがあやうく撃たれてしまうところなど、ユーモアも微妙に混ぜている点が、対比として悲惨さや無常さを映えさせているのだろう。序盤にシュピルマンの弟がドストエフスキーの小説だけは手放さないシーンや、実際的な労働を行う能力のなさそうなシュピルマンがピアノに対する執念だけで生き延びるストーリーなど、芸術の価値や力というものを描いている点も魅力的だ。

 内容が内容だけに感想をあれこれ語ったり批評したりすることは難しい映画なのだが、後世に残る名作であることは間違いない。(でも、この内容で2時間半はやっぱり長過ぎるから四つ星。これが1時間半の映画だったら文句なしに五つ星を与えられていたのだけれど…。)