THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『ロキ』

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 先の記事ではソフィア・ディ・マルティーについて辛口の感想を書いたが、『ロキ』についてもわたしはあまり評価できない。『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』は面白さはともかく「やりたいこと」はわかるし、ソツのない構成であったことはたしかだ。長所はほぼないが、目立った欠点もない。一方の『ロキ』は、導入部分である一話や二話は多元世界を管理するTVAという組織の紹介にセンス・オブ・ワンダーなワクワク感を抱けたり、自分が「本来の歴史」では死んで負けることを受け入れるロキの姿に感情移入できたりと面白いところがあるのだが、三話以降はかなりひどい。

 多くの人が指摘しているが、このシリーズの「戦犯」がソフィア・ディ・マルティーノ演じるシルヴィであることは明白だ。いちおうトム・ヒドルストン演じるロキの併行世界における「変異体」であるという設定なのだけれど、性別の違いは気にならないが、他人に対する関心が薄く直情的な彼女のキャラクターはとても「いたずらの神」とは思えない。そして、中盤以降は話の主軸は完全にシルヴィに移行しており、ロキは彼女に言われるがままに行動するだけ。そのために、トリックスターとして他人を利用したりおちょくったりしながら場をひっかきまわして自分の思惑通りに事態を進行させることを旨とする(そしてそれが最終的には失敗する)ロキのキャラクター性がまったく活かせていないのだ。

 予告などが公開された時点では「数々の歴史上の事件の背後でロキが暗躍して、最終的には毎回失敗する」というコメディタッチな展開になるんではないかという予想がされていたが、たしかに、そういうストーリーにしていたほうがずっとおもしろかっただろう。そもそも一話完結でない連続ドラマとロキのキャラクター性は水と油だ。また、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』がファルコンを二代目キャプテン・アメリカとして映画シリーズの主役に「昇格」させるために作られた作品であったように、『ロキ』はMCUマルチバース世界を展開させるという設定の紹介や変更のために作られた作品であった。要するに、MCU映画という「主」に対する「従」であるのだ。そのために、ひとつの作品としてのクオリティや面白さは二の次になっている感がある。それはそれでいいのだけれど、だとしたら変にシリアスにするのではなく、肩の力を抜いたコメディや一話完結ものとしてやってほしいところだ(本気で作られていない長編シリアス作品ほどおもしろくないものってないんだから)。

 

 後半で、少年ロキやおじいちゃんロキやワニロキが登場したり、ロキ同士で喧嘩を始めるシーンは、この作品にもっとも求めているものという感じでおもしろかった。ロマンス展開を評価している視聴者はほとんどいないようだし、シルヴィにあたるキャラは、いっそトム・ヒドルストン一人二役で演じさせたほうがよかったんじゃないかな。