THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

「アベンジャーズ」関係作品(MCU映画):ランキングと総評

 

アベンジャーズ (吹替版)

アベンジャーズ (吹替版)

  • 発売日: 2013/12/19
  • メディア: Prime Video
 

 

 まず、MCU映画の私的なランキングは以下の通りになる。ランキングの基準は「個人的な好み」「客観的なクオリティやレベルの高さ」に加えて「単独作品としての完成度の高さ」である。いくら面白かったとしても他作品の存在を前提としたパロディやオマージュやファンサービスに特化している作品より、その一作だけで名作になってやろうという気概の感じられる作品の方を評価したいからだ。

 

S:『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』

 

A:『アベンジャーズ』『アベンジャーズ/エンドゲーム』『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』『マイティ・ソー バトルロイヤル』、『スパイダーマン:ホームカミング

 

B:『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』、『アントマン』、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』

 

C:『アイアンマン』『マイティ・ソー』『ブラックパンサー』『アントマン&ワスプ』

 

D:『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』、『ドクター・ストレンジ

 

E:『アイアンマン2』『アイアンマン3』『キャプテン・マーベル』

 

(未見):『インクレディブル・ハルク

 

 ここ最近は失業しているために時間が余っているので、ディズニー・デラックスの無料期間を利用してMCU作品を一挙に見直した。大半の作品についてはこのブログで感想記事を書いてきたから、今回はMCU作品全般の傾向について思うところをさくっと述べよう。

 

 アメコミ映画といえば、lサム・ライミの『スパイダーマン』3部作やクリストファー・ノーランの『ダークナイト』やザック・スナイダーの『ウォッチメン』のような傑作がこれまでにも作られてきた。

 過去のアメコミ映画に比べてのMCUの特徴は、どの作品も多かれ少なかれクロスオーバーやタイ・インありきの構成となっていること、そして作中におけるテーマや一つの映画としての画期性を度外視してヒーロのキャラクター生の深掘りやキャラクター同士の関係性の描写に焦点を置いた作劇がされていることにある。そのために観客はキャラクターに愛着を抱いて次作が楽しみとなって、各キャラクターが数年に一度の間隔で集合する『アベンジャーズ』シリーズは毎度大ヒットとなるわけだ。

 キャラクターに特化した作劇は「キャラ萌え」や「俳優推し」にもつながってファンダムを成立させやすくなるし、商業や集金という観点からもかなり効率的であるだろう。一方で、キャラクターに力を入れるあまりに、たとえば『ダークナイト』や『ウォッチメン』のように「正義」や倫理に関係するテーマを深刻に取り扱った重厚な作品は作れなくなっている。MCU作品としては例外的に真剣な作品である『ウィンター・ソルジャー』やその続編的作品である『シビル・ウォー』は、一見すると「自由と秩序のどちらを重んじるか」という真剣なテーマ性がありそうに感じられるが、実際にはキャラクター間の友情に関する描写がメインでありテーマはあくまで物語の味付け程度のものであった。『インフィニティ・ウォー』や『エンドゲーム』では過剰人口の問題という現代社会でも現在進行形で深刻視される問題が扱われている風ではあったが、やはり、物語の動因やキャラクターの動機付けという程度の重要性しか与えられず、真剣に取り扱われていたわけではなかった。むしろ、おそらく商業的に採算を見込んだうえで流行としての「ポリコレ」要素を取り入れた『ブラックパンサー』と『キャプテン・マーベル』が結果的にはいちばん「真剣」な作品となっているのだから、皮肉なものである。

 しかし、徹底的にキャラクターを掘り下げたり観客にキャラクターへの愛着を与えることに腐心しつづけて、こまめなタイ・インやクロスオーバーをつづけた甲斐があり、総決算的な『アベンジャーズ』シリーズはいずれも面白い。世間では評判の悪い『エイジ・オブ・ウルトロン』にも独特の面白さがあるし、『エンドゲーム』にはMCUのファンであればあるほど得られる感慨が増すという特殊性がある。"これまでに作られた関連作品ありき"の面白さは飛び道具的であり正攻法な面白さではないと思うのだが、10年近くにわたってずっと劇場で新作を追いつづけた観客なら感動が充実感がボーナス的に増す、という映画体験には他の作品では代用できない画期性があるのだ。

 MCUでなくとも、TVで放映されるアニメやドラマなどと連動した「ファンアイテム」的な映画作品というものは多々存在するが、MCUは(ドラマはともかく、少なくとも映画に関しては)関連作品のほとんどが一定以上のクオリティを保っており、その年に上映された他の映画にも引けを取らないような高レベルな映画がちらほら存在する、というところを特筆すべきだ。

 単独の作品としては、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』と『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』が際立っている。前者は「リアル」なアクション映画とアメコミ映画とを融合させたシリアス風の作劇が際立っているし、後者はコメディ要素に熱血要素に家族もの要素に恋愛もの要素にピカレスクロマンにスペースオペラに…と様々な要素をごった煮にしながらも絶妙なバランス感覚で見事に仕上げた出来栄えがすごい。同様に、他のジャンルや他のカルチャーとのアメコミ映画との融合に挑戦した『マイティ・ソー』『アントマン』『ブラックパンサー』などは、各作品の出来栄えは置いておいて、その姿勢を評価したいところだ。『スパイダーマン』二作についても、サム・ライミ三部作や「アメイジング」シリーズに比べて他の作品と差別化させるために「青春」要素を強調する意図が感じられて、悪くない。一方で、『アイアンマン』三部作は最後までどこを楽しめばいいかがよくわからなかったし、『キャプテン・マーベル』はヒーローものとして破綻しているダメダメな作品であると思う。

 

 今後のMCUに注文をつけるとすれば、「ヴィランの設定や描写をもっとがんばってほしい」というところだ。アメコミ映画は何でもかんでも内輪揉めの話にしたがる傾向があって、ヴィランの多くは主人公の関係者であり、敵の動機やキャラクター性がショボかったり能力や犯行が大味であったり問題の原因が主人公の自業自得であったりして、ヴィランが出てきてもワクワクしなかったりヴィランとの対決が盛り上がらなかったりすることが多い。MCUにおいても、ヴィランの描写が優れていると思えたのは『アベンジャーズ』シリーズと『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズ、そして『スパイダーマン』シリーズと『ブラックパンサー』くらいである。『アイアンマン』シリーズのヴィランたちは特に最悪だった。…しかし、『ダークナイト』が見事に示したように、ヴィランの描写が優れていれば、主人公のキャラクターが多少薄くてもお釣りがくるくらいに名作になれる可能性があるものなのだ。