THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『ジェイコブを守るため』

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 MacのPCが壊れたので買い替えたら、なんか一年間無料でApple TVが利用できることになった。とはいえめぼしい作品はあまりなかったのだけれど、そんななかで『ジェイコブを守るため』は評判がいいし、主演であるクリス・エヴァンスは好きな俳優であるので、なんとなく観始めた。すると一話からなかなかおもしろく、三日間で全八話を視聴してしまった。わたしは基本的に映像作品として「ドラマ」は映画に比べて圧倒的に劣るものだと捉えているし、実際にドラマを観始めてもさいごまで観れなかったり「つまんねえ」と思いつづけてしまったりするものだけれど、この作品については全くそんなことなかったのだ。シットコムを除くシリアスなドラマとしては、いままで観たなかでもいちばん面白いかもしれない。

 一冊の推理小説を題材としたリミテッド・シリーズであり、シーズン2以降が全く想定されていないことは、この作品の面白さに明確に貢献しているだろう。つまり、余分な伏線を残したりクリフハンガーを行ったりする必要がなく、一話から最終話まで起承転結をあらかじめ定めた状態でストーリーを構成することができるのだ。そのために、物語としての完成度を優先することができる(逆に考えれば、普通の連続ドラマがいかに異常な条件で作られているかがわかるだろう)。また、一話から最終話まで、同じ人が監督を担当していることも重要だ。ブレがなく、一本筋が通っている。

 家族が題材であるためメインキャラクターをあらかじめ三人にしぼっていること、そして、その三人の配役が豪華であることも重要だ。ジェイコブ役であるジェイデン・マーテルは役柄通りの線の細さや不気味さを漂わせているし、母親役のミシェル・ドッカリ―もヒステリー気味のお母さんをうまく演じているが、なんといっても、クリス・エヴァンスという「華」があるところが素晴らしい。ドラマを観つづけられない理由の一つに華のなさがあるんだけれど、クリス・エヴァンスが出ずっぱりのこの作品ではそういう問題は一切ない。そして、『ナイブズ・アウト』では悪役の演技が板についておらず違和感がすごかったクリス・エヴァンスであるが*1、暴力性を抱えながらも検事という「正義」の職業に就いているこの作品での役柄は実にマッチしている。「息子が人を殺したかもしれない」という疑惑や自分の「血」に潜む歴史に苦悩している姿や、同僚であった検事からの追及に対するイラつき込みの受け答えなどの演技も見事だ。体格のデカさや「家族が抱えている(かもしれない)秘密」に苦悩する姿には、なんとなき『ゴーン・ガール』のときのベン・アフレックを思い出した*2。そして、中盤から登場する、クリス・エヴァンスの父親を演じるJ・K・シモンズの演技も見事である。

 

 ストーリーとしても、殺人ミステリー・夫婦ドラマ・親子ドラマ・法廷ものとしての各要素の配分が絶妙だし、「罪を犯しているかもしれない息子を信じること」という重たいテーマについてうまく描けている。全編にわたってフラストレーションが溜まる展開であったり一話に二回は家族間の言い争いが起こったりするなど、基本的には暗くて重苦しい作品であるが、ミステリー要素や後半で起こる展開のツイストなどによって、エンタメ性を保ちながら観続けることができるのだ。「暴力や犯罪の遺伝性」について触れられる展開も、『暴力の解剖学』を思い出して興味深かった*3

 

 というわけで、テレビドラマを認めないわたしも、「リミテッド・シリーズなら認めてもいいかな」と思うようになった。とくに一冊の小説を題材にするなら、映画以上に適している場合もあるだろう(とはいえ、要素を取捨選択して90分~150分の範囲内に再構成することで、映画のほうが作品のエッセンスを引き出せることも多いだろうが)。

 それくらいにわたしを楽しませてくれた『ジェイコブを守るため』なので、この作品のためにApple TVを体験してみることもおすすめだ。