THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『クーリエ:最高機密の運び屋』

f:id:DavitRice:20210930085717j:plain

 

 

 ついつい『ブリッジ・オブ・スパイ』を連想してしまう設定だが、予想以上に内容は『ブリッジ・オブ・スパイ』に近い。設定だけでなく、自由主義食とソ連の人間との「男の友情」やブロマンス、「信念」といったテーマが似ているのだ。

 この作品の最大の感動ポイントは、収容所に入れられてしまったグレヴィル(ベネディクト・カンバーバッチ)がオレヴ・ペンコフスキー(メラーブ・ニニッゼ)の手を握りながら「君の決意は無駄じゃなかった、君はやり遂げたんだ」と伝えるシーンだろう。やはり『ブリッジ・オブ・スパイ』でトム・ハンクスマーク・ライランスから「不屈の男」と呼ばれるシーンを連想してしまうが、讃える側と讃えられる側の陣営の東西が入れ替わっているところがポイントであるだろう。また、『クーリエ』のほうでは男たちは収容所に入れられて頭をそられて心身ともにボロボロになっているからこそ、そんななかでも友情を忘れず信念を讃えるカンバーバッチの姿にグッとくるものがあるのだ。

 

 お高くとまっていたりユーモラスな役をやったりする印象が強いベネディクト・カンバーバッチであるが、この映画の前半ではふつうのセールスマンという「庶民」を、そして映画の後半では友情のために自己犠牲を厭わない「熱い男」を、見事に演じきっている。いままでは「個性的な顔つきのおかげでシャーロック好きの女の子にウケているだけデショ」と若干妬みつつそんなにカンバーバッチのことは評価していなかったんだけれど、『クーリエ』を観たら褒めざるを得ない。すごい俳優だ。

 準主役であるメラーブ・ニニッゼも魅力的だ。使命感を胸に秘めつつ祖国を裏切り続ける役柄なので基本的に常に顔が緊張しており、表情のパターンも乏しい役柄なのだが、眼力がすごいおかげで存在感を発揮し続けている。そして、そんな彼が珍しく表情を崩すダンスシーンでの笑顔も印象的だし、その笑顔が後半の回想シーンで効いてくるのがよい。

「眼力」といえば、CIAの諜報員エミリー・ドノヴァンを演じるレイチェル・ブロズナハンもなかなかのもの。彼女のまん丸い青い目がスクリーンいっぱいに映し出されるシーンが多々あり、いやでも印象に残る。女性らしい同情心や真面目さに溢れながらそれが空回りしてしまうエミリーのキャラクター性も実話ならではという感じであるが、ブロズナハンは役柄にマッチしていた。

 

 観る前は「ずっと緊張感が漂っていたり重たかったりしたらイヤだな」と思っていたけれど、サスペンスがあふれるシーンや収容所に入れられるこおとによる辛さや苦しさが強調されるシーンは後半にとっておいてあり、前半はテンポよくストーリーが進んでいくところも素晴らしい。諜報員の事務所のテーブルがどんどん増えていくくだりにはワクワク感があるし、ロシアの人たちがイギリスの煌びやかな消費文明を毒付きながらも楽しんでしまうシーンは定番ながらもおもしろいものだ。

 最初にグレヴィルが電話を受けるシーンにて二つの部屋を同時に写す撮影の仕方も印象的であり、「日常」の象徴であるグレヴィルの奥さんを演じるジェシー・バックリーまさに「庶民」という感じでスパイスが効いている。グレヴィルが過去に浮気をしていたという事実が奥さんに疑惑を抱かせるくだりもリアリティがあるし、だからこそ奥さんが収容所を訪れるシーンの感動にもつながるわけだ。

「実話」であることに甘えず、さまざまな点で工夫を効かすことで、観客を最初から最後まで楽しませることに成功した映画であるといえるだろう。

 

 

 ……とはいえ、やっぱり『ブリッジ・オブ・スパイ』の後発であるという事実は無視できない。そして『ブリッジ・オブ・スパイ』が100点だとすれば、『クーリエ:最高機密の運び屋』は90点だ。『ブリッジ・オブ・スパイ』にあったほどのパワーやドラマチック性には、惜しいところで欠けているためである。90点でもすごいもんだけど。