THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』

 

アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー (字幕版)

アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー (字幕版)

  • 発売日: 2018/08/08
  • メディア: Prime Video
 

 

 劇場で鑑賞した当時は続編ありきの衝撃のオチばかりが印象に残ってしまったが、何度か見返すと、敵役であるサノス(ジョシュ・ブローリン)がむしろ主人公のような立ち位置になる独特のプロットが唯一無二で面白いし、群像劇としてみてもかなりの完成度だ。後味の悪い終わり方でありながら、アクションにコメディにキャラのかけあいにとエンタメ性もたっぷりな作りである。単品の映画作品としての完成度を見ても、続編の『エンドゲーム』を含めた『アベンジャーズ』4部作のなかでも、そしてMCU全作品の中でもトップかもしれない。

 あまりに要素が多すぎて感想を書くのが逆に難しい作品であるのだが、これまで『アベンジャーズ』や『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』に登場した面々に加えてさらに『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の7人とドクター・ストレンジを物語に絡ませながらも、チーム編成を3〜4つに分けたうえで様々な場所における物語を同時進行で描きつつメンバーの分離や合流もスムーズに済ませて、大量のキャラクターが関わる群像劇を破綻なく仕上げたのが見事である。アイアンマンやソーに比べて同格であるはずのキャプテン・アメリカの描写が薄かったり、スター・ロード(クリス・プラット)が「戦犯」扱いされる行動を取ってしまったり、もっと早くヴィジョン(ポール・ベタニー)を破壊しとけよと思わされたりするなど、細かい部分にはちょっとだけ残念なところもある、だが、そこは重箱の隅というものだろう。

 悪役であるサノスは「宇宙の均衡を保つための、全生命体の数を半減させる」という目的を掲げており、具体的に言うと、資源の枯渇や環境破壊にために生命が苦しんで滅亡することのないようにあらかじめ人口を減らす、ということだ。ここに関しては、アベンジャーズの面々がサノスの目的を阻止しようとするのはもちろんのこと、実際に人口は増えすぎて資源が枯渇して滅亡した星のことが口頭でしか語られず、サノスの目的そのものには観客が感情移入しづらいようになっている。…とはいえ、狂った信念を最後まで曲げずに目的達成に邁進するサノスに対して大半の観客が好感を抱くようにもなっている。このキャラクター描写の塩梅が絶妙だ。

 一方で、味方側であるアベンジャーズ(特にキャプテン・アメリカ陣営)は口では「命に大小はない」などと高潔なことを言って誰かの命を犠牲にすることを拒むが、けっきょくサノスの野望を阻止できるわけではない。続編の『エンドゲーム』においてはサノスに対するアベンジャーズ側からの「逆襲」が行われるわけだが、その方法は「技術的解決」という感が強かったし、けっきょく何人かの命を犠牲にしてしまうことになる(『エンドゲーム』で死ぬメンバーはいずれも「自己犠牲」だからOK、という考え方もできるが)。なんというか、イデオロギー論争という面では、最後までサノスは敗北しないのだ。『エンドゲーム』の公開当時はサノスの小者化と合わせてそこらへんに関する不満の声がけっこう聞こえてきて、それに対して「そもそもサノスの主張は狂人の論理として描かれているのだから最初からイデオロギー論争は描かれていないし、サノスの主張を相手にしない描き方の方が正解なのだ」という風な擁護意見も提出されていた。だが、サノスの主張や実行方法は極端であるとはいえ、人口の過剰が人類の存亡やQOLにもたらす影響を危惧することは環境倫理などの分野においてもごく一般的な主張である。ついでに言うと、命を犠牲にする云々のサノスとアベンジャーズとの意見対立には帰結主義と義務論との対立がオーバーラップするだろう。

 …というか、『ウォッチメン』をはじめとして、帰結主義と義務論との対立は「正義」を問うヒーロー映画ではよく扱われるテーマだ。そこを扱うのなら、単なる物語の味付けやプロット上の動因としてだけ扱うのではなくて、テーマとしての重みも与えてもう少し丁寧に扱ってほしかった。…とはいえ、ただでさえ2時間半に収めるのが精一杯の情報過多な映画であるのだから、テーマについてまで描く余裕はなくても仕方がないのだろう。(…しかし、MCU作品はキャラクターと世界観の描写に重点を置くあまりに、ヒーローものとしては「正義」や「自由vs秩序」などのテーマの扱いがどの作品でもあまりに軽くて薄味過ぎる、という問題点を抱えていることもたしかなのだ)。

 

 味方側のキャラクター描写について言うと、『アイアンマン』三部作では主人公なのに「傲慢で嫌なやつ」というイメージが付きまとい『エイジ・オブ・ウルトロン』でも戦犯であり『シビル・ウォー』でも損な役回りであったアイアンマン=トニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr.)であるが、『スパイダーマン:ホームカミング』を経て「保護者」という属性をゲットしたことにより、今作でもスパイダーマン=ピーター・パーカー(トム・ホランド)と絡むシーンにはキャラクターとしての深みが出ている。自分と同じくらい自信家で傲慢なところのあるドクター・ストレンジベネディクト・カンバーバッチ)とのやり取りも新鮮だ。また、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーはアイアンマンを呆れさせるほどのお気楽さやふてぶてしさを持っていて、他のMCU作品よりもコメディとピカレスクロマンの要素が強く世界観が大きく異なる『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』が合流するということの特別性を充分に活かした描写となっている。ソー(クリス・ヘムズワース)とロケット(ブラッドリー・クーパー)とのやり取りもなかなか良いものだ。その一方で、特に新メンバーと関わることのないキャプテン・アメリカクリス・エヴァンス)は、やっぱりこの映画のなかでは損な役回りになっていると思うが…。