THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『キツツキと雨』

 

キツツキと雨

キツツキと雨

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 田舎にゾンビ映画の撮影にやってきた映画監督の幸一(小栗旬)と、その田舎で木こりを営んでいたがちょっとしたきっかけから幸一の映画撮影に協力することになっていく克彦(役所広司)、二人の交流を描いた物語。

 

 木こりの克彦は典型的な「職人のおじさん」という感じだし、映画監督の幸一は特に序盤ではちょっと漫画的過ぎるくらいに「コミュ障気味の青年」という感じだ。「田舎者と都会人との交流」という題材から、映画のプロットの定番として中盤あたりには映画撮影スタッフに対する住民たちからの非難や不満やそれがエスカレートした喧嘩や対立などが描かれるのではないかとヒヤヒヤしたが、基本的にネガティブな要素はほとんど描かれていない。幸一は前半は極端なまでに対人関係に問題があったところが克彦と触れ合うようになるとすぐに治ってしまうし、克彦は克彦でこの手のキャラクターにつきものの厄介な頑固さや偏狭さなどがほとんど強調されない、幸一(そして都会人一般)に対してかなり都合の良いキャラクターとなっているフシがある。

 しかし、同じ監督の『横道世之介』がそうであったように、基本的に「リアル」を描くつもりはなくて漫画的・ファンタジー的な理想化されたキャラクターや人間関係を描きたいタイプの監督であるのだろう。実際、見ているこっちをヒヤヒヤさせたりイライラさせたりするようなネガティブな出来事が起こらない作品というものは、それはそれでありがたいものだ。

 田舎を舞台にしているだけあって森林や川などの風景は美しいし、克彦の家や幸一が滞在している旅館などもいい味を出している。ベテラン俳優役として出演する山崎努も、出番は少ないながらもなかなか印象的だ。クライマックスの「竹やり隊」のシーンや、克彦が幸一のために作成した椅子が次の撮影現場である海で使われているシーンも森林との対比があって気が利いている。コメディ要素としては、子役の代役として克彦の同僚の子供がゾンビメイクを施されて川を流されるシーンが特に面白かった。

 しかし、『桐島、部活やめるってよ』といい『カメラを止めるな!』といい、邦画における「映画撮影もの」映画はやたらと「ゾンビ映画を撮影している」という設定にしたがるようだが、実際にはゾンビ映画なんてそんなに撮影されていないだろうし映画好きのなかでもゾンビ映画が好きな人というのはそこまで多くはないだろう。もちろん、「主人公たちの部外者のキャラクターをエキストラとして話に絡めやすい」とか「制作にお金がかからないという設定にできる」とか、作劇的な利点からゾンビ映画が題材とされているのだろうけれども。