THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『ゴッドファーザー PARTⅡ』

 

ゴッド・ファーザーPART2 (字幕版)

ゴッド・ファーザーPART2 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 前作も今作ももちろん名作だが、今作の面白さは前作とはかなり違っている。ヴィトー(マーロン・ブランド)のカリスマ性やマイケル(アル・パチーノ)の「覚醒」のシーンなどに英雄譚的な面白さがあった前作に比べて、今作ではマフィアのボスとして生きるマイケルの悲痛や苦悩がかなり辛いかたちで表現されることになる。コメディ的なシーンも挟みながら若かりし頃のヴィトー(ロバート・デ・ニーロ)が活躍する「古き良き」な時代を描く場面も、現代におけるマイケルの苦悩やファミリーの腐敗や泥沼をさらに強調する効果を担っているのだ。

 

 前作では情けない役回りで出番も少なく扱いの悪かったフレド(ジョン・カザール)が、その情けなさがさらに掘り下げられることで、かなり重要かつ印象に残る人物となっているところも特徴だ。

 わたしたち一般人はおおよそマイケルのような有能さや大胆さや冷酷さを持ち合わせていないことはもちろんのこと、トム(ロバート・デュヴァル)のような理知的さとか気の利きっぷりとかも備わっていなければ、ソニージェームズ・カーン)のような暴力性もない。しかし、フレドのような優柔不断や意志薄弱、そして彼が自分よりもはるかに有能な弟に対して見せたような虚栄心や嫉妬心は、かなりの人たちが多かれ少なかれ持ち合わせているものだろう。

 だから、わたしたちはついフレドに感情移入しながら『ゴッドファーザー PARTⅡ』を鑑賞する。そして、最後の彼の死に様になんとも言えない居心地の悪さや気まずさを感じてしまうのである。

 

 とはいえ、冒頭のパーティーシーンからしてフレドやコニー(タリア・シャイア)は厄介ものとしてマイケルに迷惑をかけている、ただでさえ他のマフィアとの勢力争いに神経を割いているのに身内の粗相の後処理までしなければならないマイケルが気の毒になることもたしかだ。

 酒に酔ったフレドがつい口を滑らせてハイマン・ロス(リー・ストラスバーグ)やジョニー・オーラ(ドミニク・チアニーゼ)と知り合いであることを白状してしまうのを聞いてマイケルが文字通り頭を抱えるシーンはかなり印象深い。敵勢力と通じて自分の命を危険にさらしたということは抜きにしても、こんなだらしない兄は持ちたくないものだと思う。

 フレドのマフィアに向いていなさは凄まじいものだし、元をたどればそんな息子を裏社会に関わり続けさせてきたヴィトーの責任も重いだろう。若年期のパートでは格好良く英雄的に描かれているヴィトーであるが、彼の不始末や負債が息子であるマイケルに全部乗っかってきて、そのせいで兄弟で殺し合うという最悪の展開になるわけだ。そう考えると、ヴィトーもかなりロクでもない存在である。

 

「ヴィトーは"ファミリー"を作って家族を守ったが、マイケルの代では"ファミリー"を守るために家族を殺すことになる」という皮肉な悲劇がこの映画の骨子であるが、文字にしてみるとなんてことのないこのプロットの描き方が見事なのだ。最後に挿入される、兄弟たちや前作で始末された裏切り者のカルロやテッシオが一堂に介する場面は前作でも描かれなかったような和気藹々としたシーンになっているだけに、作中における現在との対比がかなりもの哀しい。

 

 ハイマン・ロスは敵としてはちょっと物足りないが(前作でそこまで悪いことをしたわけでもないのに無残に殺されたモー・グリーンの敵討ち、という点は良いが)、フランク・ペンタンジェリ(マイケル・V・ガッツォ)はかなり悲惨な運命を辿る敵役でありながらも愛嬌や人柄の良さが感じられて憎めない役柄となっている。彼の部下であるウィリー・チッチ(ジョー・スピネル)も脇役ながら根性を見せてくれる良いキャラクターだ。

 そして、前作に続いて、マイケルと結婚した後にも"カタギ"としての価値観を体現し続けるケイ(ダイアン・キートン)は際立って重要なキャラクターとなっている。彼女がマイケルに「あなたの息子をこの世に誕生させたくないから堕胎したの」と伝えるシーンは、男性側からしたらこの世で一番キツいかたちの自己否定であるし、フレドを殺したこと以上にマイケルに精神的ダメージを与えたことは想像に難くない。

 フランクに同情するケイやフレドに同情するコニー、ファミリーの裏稼業についてカマトトぶった態度を取りつづけるコルレオーネ家の母親など、女性キャラクターたちが良くも悪くも「善性」を象徴する存在として描かれているところは、古典的ではあるがなかなか効果的な手法であるだろう。

 他にも色々と書きたいところはあるが、終盤における「歴史が教えてくれることがあるとしたら、誰であっても殺せるということだ」というマイケルの言葉はやはり名セリフだ。「相手を皆殺しにするつもりか」とドン引きしてしまっているトムの姿も印象的であるし、マイケルが最後まで信を置けていた唯一の人間であるトムもこの件をきっかけにしてファミリーから遠ざかるであろうことが予測できる。