THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『アナライズ・ミー』&『アナライズ・ユー』

 

 

 

 ロバート・デ・ニーロ演じるマフィアのボスが少年のときに父親を亡くしたトラウマからパニック障害を発症したが、「男らしい」マフィアの世界ではパニック障害になったりそれを治療したりするのは「恥」だと見なされるので、ひょんなことで知り合ったジェリー・クリスタル演じる精神科医の元でお忍びで治療を続けて、精神科医はデ・ニーロにめちゃくちゃ迷惑をかけられるけれど、なんだかんだで二人の絆は深まっていきデ・ニーロの障害も治療できて……という一作目と、今度はデ・ニーロのほうが精神科医の病を癒すことになる二作目。

 

「男性同士のケア」だの「有害な男らしさ」だの、どこぞの批評家とかイマドキの(女性)観客が好んで観たがるようなテーマが90年代終盤やゼロ年代の時点で扱われているところには、ある意味で先見の明があるとはいえる。しかし、現代的な観点からするとその扱い方の手つきはかなり雑であり、デ・ニーロ演じるキャラクターをバカにしたりホモソーシャル的な観点を相対化できていたりするとはいえず、批評的な観点からはさほど優れているとは判断できないだろう。

 

 批評的なポイントやジェンダー的な観点を抜きにして評価すると、コメディとしてはまずまず。『ゴッドファーザー』をはじめとする諸々のマフィアもののパロディ描写は徹底しており気合が入っているし、ドン・コルレオーネが銃殺されるシーンでデ・ニーロがフレドの役を演じている、というくだりも(ちょっとくどいが)笑える。『フレンズ』のフィービーを演じる女優(精神科医の奥さん役)とデ・ニーロが一緒の場面にいるのもなんだか不思議でおもしろい。デ・ニーロの側近のマフィアのおじさんもかわいいし。

 

 とはいえ、デ・ニーロが精神科医に対してあまりに一方的に迷惑をかけて彼の人生に少なからぬ悪影響を与えるのに、それに見合うだけの救いとか見返りとかが精神科医に与えられるわけではないので、見ていて不愉快になるところも多いし後味もそこまでよくない。このバランス感覚の悪さは、90年代というよりも80年代やそれ以前のレベルだと思う。精神分析を活かしたジョークもちょっと浅い。それでも一作目はデ・ニーロと精神科医が打ち解けて友情を築くまでの描写や終盤における精神科医のプロフェッショナル精神など見るべきところが多く、自身の内面にある繊細さや葛藤と「メンツ」を重視するマフィアの世界の価値観との間で綱渡りをするデ・ニーロのキャラクターに深みを感じたりもできるのだが、二作目では一作目にあった高尚さや美点が失われてグダグダのコメディになっている。

 

 いずれにせよ、テーマが現代的なだけあって、2020年代にリメイクしたらより知的で繊細に、かつコメディのクオリティもアップさせた名作に化ける可能性のある題材ではあるだろう。ただし、マフィアを演じまくってきた実績のあるデ・ニーロという名優が主人公であるからこそ成り立つ作品でもあることは事実だ。デ・ニーロに匹敵する俳優は現代だとちょっと考えづらい。