THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『ファウンダー:ハンバーガー帝国のヒミツ』

 

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ(字幕版)

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ(字幕版)

  • 発売日: 2018/01/24
  • メディア: Prime Video
 

 

 マクドナルドの"創業者"、レイ・クロック(マイケル・キートン)を主人公にした伝記的映画。ディック(ニック・オファーマン)とマック(ジョン・キャロル・リンチ)のマクドナルド兄弟との確執を中心に、妻のエセル(ローラ・ダーン)との仲が破綻してジョアン(リンダ・カーデリーニ)と再婚するところも描かれる。

マクドナルドは初号店の経営者の兄弟にセールスマンが近づいていってフランチャイズを持ちかけて、それが成功してビッグビジネスとなったが、持ちかけたセールスマンが兄弟を裏切って乗っ取った」というストーリーは、子供のころに何かの学習まんがで読んだことがあって記憶に残っている。テレビでもよく取り上げられるエピソードであり、そういう意味では「いまさらマクドナルド創業秘話なんてみんなが知っている話を映画にされてもなあ…」と思うところはあったたのだが、いざ観てみるとかなり面白い映画であった。

 

 野心家で非人道的な面のある主人公のビジネスもの、という点では『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』を思い出すところもある作品だ。しかし、あちらは株式という"虚業"であるのに対してこちらはハンバーガーという"実業"であること(後半では土地にも手を出すことになるが)、1950年代という"古き良きアメリカ"という時代設定、そして自己啓発書やポジティブ・シンキングをモチベーションの糧とするレイの素朴で等身大的な人柄とがあわさって、弱肉強食な世界の殺伐さや後味の悪さが強調され過ぎない、いい塩梅のビジネス映画となっている。

 レイとマクドナルド兄弟が邂逅して史上初の「ファースト・フード」を実現したマクドナルド兄弟の画期性が描かれるシーンはワクワクするし、レイがフランチャイズ化をトントン拍子に進展させていく場面の爽快感はこのテの映画の醍醐味といえる。レイは後半では事業の成功により調子に乗って傲慢になり性格も悪くなっていくが、もともとが実直な人物ということもあって彼にできる悪事は不倫と乗っ取りがせいぜいであり、20世紀の後半にあらわれた魑魅魍魎な実業家連中や虚業家連中に比べたらずっと可愛らしいものである。史実通りにレイにやり込められて大切な「黄金のアーチ」や「名前」すらをも奪われてしまうマクドナルド兄弟のエピソードは実に切ないが、レイが「"マクドナルド"という名前に憧れたんだ」と告白するシーンはなかなか印象的だ。

 メインの役者陣はみんなおっさんかおばさんであるが、どの俳優も実に渋くて適役である。マイケル・キートンはもちろんのこと、ジョン・キャロル・リンチローラ・ダーンも素晴らしかった。

 

 ところで、マクドナルドといえば動物倫理的には大戦犯みたいなものであるし、わたしが公開当初から気になっていたこの映画を観ることを後まわしにしていたのも「工業式畜産の場面が出てきたらキツいなあ…」と思っていたからだ。

 しかし、ハンバーガーの肉を焼くシーンなどはもちろん出てくるものの、マクドナルドの製品の内容や原材料の大量生産の方法について言及されるシーンはほとんどなく、後半でフィーチャーされるメニューはハンバーガーではなく粉シェイクである。マクドナルドを題材にしておきながら畜産に関する描写がないのは片手落ちという気はするが、この作品のテーマはあくまで「マクドナルド」というチェーンではなく「レイ・クロック」という人間である、ということなのだろう。