THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『フリー・ガイ』(と『ザ・スーサイド・スクワッド』)

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 同日公開した『ザ・スーサイド・スクワッド』のついでの前座という扱いで、軽い気持ちで観にいったのだが、予想を遥かに超えてぶっちぎりで今年のベスト*1。ここ数年のエンタメ映画としてもベスト級である。ぶっちゃけたところ俳優陣は主演のライアル・レイノルズを含めてみんなコメディ映画然とし過ぎていて精彩を欠いているのだが、設定とストーリーとテンポが、そしてテーマがあまりにもエンタメ映画の直球の王道を行っていて、素晴らしい。

 ちなみに『レディ・プレイヤー・1』はわたしはクソ映画だと評価しているんだけれど、「ゲーム」をテーマにしているくせに監督が「ゲーム」に興味がないことがミエミエでクリエイターに対するカルト宗教的崇拝が物語の動因になってしまった『レディ・プレイヤー・1』と違い、こちらは「ゲーム」(と「AI」)が最初から最後まで物語に活きている。主人公が善行を重ねることでレベルアップしていく、というゲームの裏をつく展開も、王道でありながらも小気味よくて爽快だ。つまりこの作品は『グランド・セフト・オート』的なバイオレンスゲームを舞台にしつつそのバイオレンス性を作品内で否定しているのだが、そういう点では、子ども向けアニメのくせに『グランド・セフト・オート』的なタトゥーの入った暴力的キャラクターたちを味方側に据えた『シュガーラッシュ:オンライン』よりもずっとモラルと教育性に溢れている。優れた物語にとって、こういうモラルって実に大切である。

 ゲームのプレイヤーや実況者を通じて主人公の存在が徐々に世間に知られていくところにはワクワク感があり、それがクライマックスにて世界中の人間が「世界」の崩壊を救うための主人公の活躍を見守る「観客」となる展開につながっているところも実にアツい。悪役の描き方がちょっと露骨に小物っぽ過ぎるところだけはマイナスなのだが、某アメコミヒーローのカメオ出演などの小ネタも挟みながら、観客を飽きさせることなく終盤まで物語のボルテージを上げるところが実に最高だ。また、いまどき珍しいくらいに「ロマンティック・ラブ」が物語のカギとなって肯定されているところも作品の面白さに明確に貢献している。

 

 ロマンティック・ラブへの憧れ、そして「モブキャラではなく主役になること」への憧れは、なんのかんの言っても、多数派の人間に備わっているという点で普遍的な欲求であると思う。そして、良い物語をつくるためには、それらの欲求の存在をきちんと理解しなければいけない(その欲求を満たすか、あえて裏切るかは、物語次第だけれど)。

 鑑賞直後に冗談で「胎界主か?」とつぶやいたけれど、考えれば考えるほど、作品の面白さの根幹となる部分は『胎界主』につながっているように思える*2。「主役」と「脇役」、「役割」や「存在の承認」、「世界に対する認識」といったトピックに対する考慮の深さやそれらのトピックの扱い方が通底しているのだ。これらのトピックは、本来なら映画や漫画よりも小説的なものであることもポイントであろう。要するに、『フリー・ガイ』は王道エンタメ映画であるだけでなく、ある種の文学性も備えているのである。

 

*1:ちなみに『ザ・スーサイド・スクワッド』は、まあ面白かったのだけれど、ハーレイ・クインがウザかったのがとにかくマイナス(そもそも悪女キャラが嫌いで、破天荒系サイコパスキャラが嫌いなので、それを組み合わせたキャラな時点で大嫌いなのだが、そのうえになんかフェミニズム的なメッセージ性も背負わされているので物語的にもひとりだけ露骨に"保護"されており、自分はメタ的に安全圏にいながら他のキャラを虐殺するシーンが華麗に描かれているというのが実に不愉快だ。フェミニズム的メッセージやその他のポリコレアイデンティティ的メッセージを背負ったキャラがバトルや殺し合いをする展開ってうまく機能することがほとんどない)。また、作品としては「どんな底辺の存在にも価値がある」というメッセージを出しているが、絵面としては「南米の人々の生命の価値はアメリカ人(の囚人)の生命の価値よりもずっと低い」という状態に終始なっているのも根本的におかしいし、それをスルーして誉めている人たちもどうかと思う。ジェームズ・ガンは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』に比べて枷が無くなったぶん、『スーパー!』の頃のような悪趣味さやグロさを全開に出しているが、それは物語の後味を悪くしてせっかくのクライマックスの感動を薄めさせることにしかつながっていないように思える。デッドショットブラッドスポート(別人なのは分かっていたけれど名前を混同していた。どっちも銃撃キャラって分かりづらすぎじゃない?)とピースメイカーが「殺しの腕」を競い合うシーンはまだ面白かったのだが、たとえばサメが可愛い海洋生物に襲われて血まみれになるシーンとか、いらないでしょ。とはいえネズミとネズミ使いの女の子は可愛かったのでその点はよかった。

*2:

theeigadiary.hatenablog.com