THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『ペンギンが教えてくれたこと』+『ザ・ゴールドフィンチ』

●『ペンギンが教えてくれたこと』

 

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 実話に基づいた映画。タイ旅行に行ったサム・ブルーム(ナオミ・ワッツ)は不慮の事故で下半身不随となってしまい、車椅子での生活を余儀なくされるようになった。夫のキャメロン(アンドリュー・リンカーン)は献身的に彼女を支えるのだが、事故の現場に居合わせた息子のジャン(ジャッキー・ウィーヴァー)は責任を感じて暗い子になっちゃうし、これまで一家の母親としてがんばっていた自分が何もできない役立たずに感じられて、サムはめっきり落ち込んでしまう。しかし、ある日、子供たちが怪我をしたカササギフエガラスの雛を拾ってきて、白黒だから「ペンギン」と名付けて、回復するまで家で保護することになった。当初はペンギンのことを鬱陶しがっていたサムだが、家族が出かけているなか家で車椅子でペンギンとふたりで生活しているうちに、同じ立場なもんだから段々と共感して絆が芽生えていく。そうこうしているうちに、昔から好きだったマリンスポーツを再開するため、カヤックの練習も始める。なんだかんだあってサムは自分の境遇を受け入れて、前向きになっていく……(それでカヤックの世界大会とか障害者サーフィンの大会に出て入賞する、めでたしめでたし)。

 

 困難で恵まれない立場にいる主人公が同じような立場にいる動物と出会い、絆を培って、前向きになって社会復帰する……という点では『ボブという名の猫:幸せのハイタッチ』を思い出させる作品だ。後半のほうでペンギンが他の鳥に襲われる危機感あふれるシーンも、ボブが脱走するシーンを連想させる。動物実話ものはやはり話のメリハリを付けるのが難しいためにこのようなハラハラドキドキシーンを挿入するのだろうが、見ていて気が気でなくなるから止めてほしい(わたしの父親は、このようなシーンがあるからという理由で、動物もの映画を観ないことにしているくらいだ)。

 

 

 

 淡々としており面白さはあまりないのだが、ナオミ・ワッツの演技のすごさも手伝い、感情移入させられるクオリティの高い映画ではある。とくに、前半における、サムが車椅子になって家族の役に立たなくなったことによる「惨めさ」や「悔しさ」、それにより内向的になり自傷的になっていく様子の描き方は見事なもの。ついつい「うわ〜」とか「やめて〜」とか口に出ちゃうくらいにのめり込んだ。

 しかし、実話だから仕方がないとはいえ、ペンギンが登場されてからも劇的に癒されるわけではなく、サムの「回復」はかなりゆっくりしたペースで描かれる。もちろん現実では鳥と仲良くなったところで前向きハッピーになれるものではないんだからリアリティがあって丁寧な作劇といえるし、最後に夫からの「How are you?」に「I`m fine」ではなく「I`m better」と答えるところは深みがあるんだけど、映画的な面白さに欠けるのは否めない。ナオミ・ワッツ以外の役者には存在感がないし。あとこれも実話だから仕方がないんだけど、ブルーム一家がちょっと金持ちすぎて、同情心がやや削がれてしまった。

 

●『ザ・ゴールドフィンチ』

 

 

 

 テロ事件で母を失った一人の男の子(オークスフェグリー/アンセル・エルゴート)と彼がテロの直後に美術館からこっそりと持ち出していたゴールドフィンチが描かれた絵画をめぐる数奇な運命を描いた人間ドラマ。2時間半もあって、テンポは悪い。周囲の人間模様も描きつつひとりの人間の半生を子供時代から丸々描こうとするチャールズ・ディケンズジョン・アーヴィング的な「大河」ドラマ感が強く、長編小説が原作であることがありありと伝わってくる。そして一本の映画としては失敗しているのだが、このテのストーリーが映画として面白く成功することのほうがめずらしい(『ガープの世界』も映画になったらイマイチだったし、『フォレスト・ガンプ』はほんとに稀有な例だ)。

 主人公の大人時代を演じるアンセル・エルゴートと、一時的に彼を引き取る一家の母親を演じるニコール・キッドマンは、さすがに魅力的。このふたりの登場人物はキャラクター性もそれなり複雑だ(片方は主人公だから当然なんだけど)。しかし、脇役たちは、映画のキャラクターとしても深みがないし役者としても浅薄だ。とくに父親とその情婦のキャラクターは「欲にまみれたロクでもない児童虐待をする大人」というだけでしかなく、無理矢理に悪役を作って主人公の苦難を負わせている感じがミエミエで(これもまた悪い意味でディケンズやアーヴィングっぽい)、しょーもない。ヒロインもイヤなやつだし。

 テロで親を失う主人公、という境遇からは『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』を思い出した。あれも露骨な感動ものだったけれど、泣いちゃったなあ。