THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『初恋』+『回路』+『プラットフォーム』

 

●『初恋』

 

 

 

 公開当初は評判が実によく、カンヌでもなんか評価されていたらしいからけっこう期待して観たのだけれど、ぜんぜんダメだった。昔のタランティーノ的な内容であるけれどあちらを100点としたら30点という感じ。画面の暗さ、何言っているかよく聞き取れないセリフ、ヘラヘラしたり仏頂面だったり叫んでばっかりでバリエーションのない演技、ダラダラと間延びしてメリハリなく進行するくせに大事な場面でギャグやアニメ演出を入れるバランス感覚のなさなどなど、日本映画の悪いところがテンコ盛り。これがカンヌで評価されたとしたら、日本人がバカにされていて日本映画に何も期待されていないということでしかないと思う。

 ベッキーのキャラクターがやたらと評価されているが、「大暴れ」というほどには暴れもしないし、ひたすら叫んで口汚い言葉ばっかりなセリフは言わされている感が強い。このクオリティの「強い女」すら日本映画ではなかなか描かれていないから待望されていたということかもしれないけど、もうちょっと高い望みを持ってもいいと思う。

『初恋』というタイトルのくせに窪田正孝演じる主人公と小西桜子演じるヤク中ヒロインの恋愛に全然尺が割かれておらず、全く印象に残らないのもダメダメ。元ネタにしているであろう『トゥルー・ロマンス』や『ベイビー・ドライバー』を見習ってほしい。そもそも主人公の出番自体が少なすぎるし、占い師のくだりしか印象に残らない。

 純主人公的なポジションを演じる染谷将太だけは魅力的だが、彼のキャラクターも、なーんかコーエン兄弟作品にいそうな感じ。そう、とにかくありとあらゆる点において、10年とか20年とか前の映画の劣化版でしかないのだ。

 

●『回路』

 

 

 黒澤清といえばホラー風味に不気味で不穏でホラーっぽい作品は撮るけれど実際には「恐怖」とはやや違うものを描こうとするし怖くもない……と思って観たら前半はふつうにホラー映画でこわかった。ビビっちゃった。

 時代性もあってエヴァンゲリオンを連想させるような雰囲気が漂っており、ホラー作品な前半から「セカイ系」的な後半への飛躍が評価の理由だろう。思わせぶり感やすごいものを描いてますよ感もやや強すぎるし、現代で同じことをやられると失笑ものだけれど、平成当時の雰囲気とは実にマッチしているし、やはりオリジナリティは凄くて悪くない。『アカルイミライ』のこともいろいろと思い出した。

 登場人物たちのコミュニケーションの演出も独特で印象的。とくに加藤晴彦が演じる大学生のパートは、大学図書館やパソコン室の描き方のノスタルジアがすごくて、自分の学生時代を思い出してセンチメンタルな気持ちになった。ノースリーブな先輩女子を演じる小雪も実に魅力的で、惚れない男はまずいないだろう。一方で麻生久美子が演じる会社員のパートは、ホラー要素は強いものの面白みは少ない。

 閉鎖的な人間関係のなかで次々と人が死んでいくホラーでありながら、冒頭とエンディングで「船」が描かれることで希望や開放が演出されている構成も実に独特だ。もちろん、後味はまったく悪くなく、単なる幽霊ホラーではなくなにかしらの「映画」というものを観た気にさせてくれる。

 

●『プラットフォーム』

 

 

 

 スペイン語はわからないので英語吹き替えで観たかったけれどなかったから日本語で視聴。けれども、寓話的なストーリーや世界観であるためか、日本語吹き替えも予想外にマッチしていた。

 

 この手の映画でエンディングがはっきりとせずに思わせぶりに終わるのはかなりのマイナス点であり、それまでに描かれてきた色々なトラブルやそれに対処する主人公たちの苦悩や苦闘もなかったことにしてしまい台無しになる。しかし、この手の映画で、はっきりと何かを示したり解決したりするエンディングはなかなか描かれないことも事実だ。そういう点ではシャマラン監督の『オールド』は実にエラかった。

 

 とはいえ、垂直に連なる200階の個室のそれぞれに二人組が監禁されていて、垂直に運ばれていくフルコースメニューを各階層の人が食していくことで上の階層の人は食事に困らないが下の階層の人は飢え死にのリスクが高まっていく、というひとつの設定だけで一本の映画を撮れているのは評価点。そこで起きるトラブルや人間ドラマは、食人をめぐるいざこざも含めてほとんどは予想の範囲であるが、クライマックスに主人公とアフリカ系の人が「下の人に食事を残すために、フルコースと一緒に自分たちも下の階層に降っていき、食事を取り分けていく」という決断をするところは悪くない。

 エゴがむき出しになる設定のなかで善性が煌めいて「協力」や「倫理」が成立するか否か、というドラマはデスゲームものとして定番であるが、終わり方は満足いかないとはいえそのドラマに挑戦するところはそれなりに評価できる。『カイジ』を思い出したりもした。まあ結局のところは中途半端な作品ではあるんだけれど、ちょっと考えさせられるところもありちょっとワクワクさせられるところもある上質なデスゲーム映画として鑑賞するぶんにはよい作品だ。

 

おまけ

 

●スコア

 

 

 

 ロバート・デ・ニーロエドワード・ノートンのW主役で、さらにはマーロン・ブランドまで出ている豪華作品なのに、かなり凡庸な内容。エドワード・ノートンっていつも二重人格か障害者かそれを偽装する役をやっているんだなと思った。

 

●『007/トゥモロー・ネバー・ダイ

 

 

 90年代らしいケバケバしさと安っぽさと軽薄さが全開。敵役が「智」と「暴」に分かれているのは007の定番であるが、「智」がイエロージャーナリズムを煽るメディア王であるところは新しい……と思いながらも、ふつうに兵隊を持っており実力行使で007を始末しようとするところはどうかとおもう。また、「暴」担当の人はロックミュージシャンみたいな格好をしていてあまりにも貫禄がなかった