THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『ダンプリン』

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 テキサスにある小さな田舎町、ブルーボネットに住むウィローディーン・ディクソン(ダニエル・マクドナルド)は丸々と肉付きのよい女子高生で、友人からは「ウィル」と呼ばれていて、母親のロジージェニファー・アニストン)から付けられた「ダンプリン(ぷにちゃん)」というあだ名を嫌がっていた。ウィルは多忙な母親に代わって自分の世話をしてくれて、カントリーソングをはじめとして様々な趣味や外見にコンプレックスを感じずに自信を持って生きる価値観を教えてくれた叔母のルーシー(ヒラリー・ベグリー)のことを慕っていたが、彼女が昨年に亡くなってからは落ち込みがちになっていたし、母親との関係もうまくいかない状態にあった。

 ロジーは元ミスコン女王であり、中年になった現在でもブルーボネットで毎年開かれるミスコン運営の幹部として活躍していた。ウィルはミスコンのことも母親のことも嫌がっていたが、ある日、亡きルーシーもミスコンに出場していたことを知る。そして、慕っていた叔母の遺志を継ぎたいという気持ちが半分、母親やミスコンに興じているスタイルの良い同級生たちに対して抗議の意志を示して嫌がらせがしたいという気持ちが半分で、ミスコンに出場することにしたのだ。

 ルーシーが引き合わせてくれた大親友のエレン(オデイア・ラッシュ)に加えて、ウィルと同じく太っていて同級生からもバカにされているミリー・マイケルチャック(マディ・ベイリオ)、典型的なフェミニスト的心情を持ちレズビアンっぽい見た目のパンクなハンナ(ベックス・テイラー=クラウス)も、ウィルと一緒にミスコンへの出場を決意する。しかし、ミリーはミスコンに本気で取り組んで優勝を狙う一方でハンナはミスコンの女性差別性に抗議できればよいと思っているなど、4人の意思は一致しない。バイト仲間のイケメンなボー・ラーソン(ルーク・ベンワード)との恋愛が進展したかと思ったらエレンへの外見的コンプレックスを爆発させて喧嘩になってしまうなど、人間関係にも色々な変化が起きる。そのうちに、ルーシーが出演していたドラァグ・バーを訪れて、叔母の縁もあってドラァグ・クーインたち(ハロルド・ペリノー・ジュニアなど)との親交を深め、ウィルの価値観も変わっていく。

 ろくな特技も持っていないウィルはミスコンの予備審査も母親のお情けがなければ通らないほどであり、前途が不安なところだったが、友人たちやドラァグ・クーインたちとの親交とか叔母の思い出とかを支えにしてなんとか頑張っていき、ミスコン本番ではウィルとそしてミリーは華々しい成功を収めるのであった…。

 

 観る前には「ボディ・ポジティブ」的な価値観を唱えるフェミニズム映画かと思っていたし、実際にフェミニズムジェンダー論的な要素は全面に出ているのだが、それと同じくらい「保守的」な価値観にも配慮しているバランスの良い作品となっている。なにしろ、田舎町でのミスコンがかなり肯定的に描かれており、「女の子たちが自己実現して輝ける場」として作中で定義されているわけなのだがら、真の意味でのフェミニズム映画にはなりようがない(フェミニズム的主張を行なってミスコンに意を唱えていたハンナも、けっきょくミスコンに乗り気になってまんざらでもなくなってしまうところが象徴的だ)。

 ブルーボネットの町のようにミスコンが一大イベントとなっている田舎町がアメリカに実在するかどうかは知らないが、町の女性たちが一丸となって協力しつつ競い合うこの行事には、ロバート・パットナムやロバート・ベラーの社会学が強調するような、「コミュニティ」や「伝統」というもの良さや価値が感じられる。アメリカの田舎町を舞台にした青春映画というと「田舎の価値観から逃れて都会に出ていく」ことが定番なので、テキサスの田舎町の価値に主人公がどっぷり浸かって適応したまま終わるこの作品は、けっこう特殊なものであるかもしれない(ドラァグ・クイーンが関わってきたり"ミスコンの伝統"が破られるシーンが続出するところには、リベラルな価値観も示されているのだが)。

 また、観る前には「自分のことをデブだとからかう男子たちを見返してやる」的な展開だと予想していたのだが、そういう描写がされるのは前半のごくわずかなシーンだけで、作中におけるメインの対立軸はウィルとロジーとの"母と娘"の対立軸であることもまた新鮮だ。ロジーがお情けでウィルの予備審査を通過させやるシーンなど、その対立関係も曖昧であるところがまた面白い。メタ的には、ロジーを演じるジェニファー・アニストンは往年の名ドラマ『フレンズ』でモテまくって人生を謳歌しまくったあの"レイチェル"と同一人物である、というところも『フレンズ』のファンからすれば印象深いところだ*1

 

 また、ウィルと一緒にミスコンに出場する友人たちのキャラもよくできている。ハンナは出番は少ないが強烈な印象が残るし、エレンは実に良い親友という感じだ。そして、ウィルと同じく太っちょでありキャラが被っているから単なる脇役かなと思わされたミリーにも母親とのドラマがあり、彼女が終盤で意外な活躍を見せるところは実に気が利いている。他のキャラクターに比べて素直でお人好しな価値観をしているためにミスコンにも真っ向に取り組んだ彼女がいちばん結果を残す、というあたりが実に爽やかだ。

 

 お話の筋自体はありきたりであるし、男子とのロマンス描写がしょうもないものであったり、ドラァグ・クイーンたちをはじめとして良い人が多すぎて展開も都合良すぎるでしょ、というところは否定できない。印象に残る場面も、ミリーやハンナが出てくるシーンしかない。しかし、フェミニズムやリベラルのメッセージ性と保守的な価値観をうまく組み合わせて万人が楽しめるストーリーに仕上げられている「上手さ」を評価したくなる映画である。