『ザ・タウン』
ベン・アフレックが監督で主演の、銀行強盗もの。ヒロインがレベッカ・ホール、主人公の相棒であり暴力傾向の高い犯罪者がジェレミー・レナー、主人公たちを追うFBI捜査官がジョン・ハム、主人公の父親がクリス・クーパー、ボストンの犯罪者たちを仕切る"花屋"と称されるボスがピート・ポスルスウェイトによって演じられている。
強盗を題材にしたチームものである点や「悪の世界から足を洗いたくても諸々の事情が足を引っ張ってなかなか脱出できない」という主人公の苦悩、捜査官側の視点もけっこう描かれるところ、そして街中での犯罪者たちと警官の壮絶な銃撃戦など、様々な点で『ヒート』を思い出させる作品だ。しかし、世評がかなり高い『ヒート』に比べると、『ザ・タウン』は「優等生的で小ぢんまりしている映画であり、『ヒート』の模倣品に過ぎない」と評価されることも多いようである。
実際、飛び抜けて優れた点があるわけではないし、ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノが共演していた『ヒート』に比べると役者の格はだいぶ落ちる。ベン・アフレックはどう見てもそこまで屈折しそうにもない善人さが漂っているので、そもそも「悪人としての苦悩」を背負えるような人物ではないかもしれない。もちろん、公開当時における『ヒート』にあったような画期性もこの映画にはない。
しかし、自己陶酔な感じが強くて描写もくどくてキャラクターたちもマッチョイズムがすごかった『ヒート』に比べて、こざっぱりしていてキャラクターたちも地に足が着いている『ザ・タウン』にも、他にはない良さがあるのだ。
ベン・アフレックもレベッカ・ホールもそこまで飛び抜けた美男美女ではないからこそ恋愛パートには共感できるし、ジョン・ハムも真面目で融通のきかなそうな捜査官らしい顔をしている(この人は『リチャード・ジュエル』でも捜査官役を演じていた)。
なにより、ジェレミー・レナーが演じるキャラクターがいい。「主人公と同じチームにいるが暴力傾向の高い危険因子」的なキャラクターはこのテの映画にはありがちだが、この作品でのジェレミー・レナーの「危険さ」の描写の塩梅は絶妙だ。普通はこのテのキャラクターはお邪魔虫として観客から嫌われるものだが、『ザ・タウン』ではギリギリのところで感情移入できる存在になっているのである。死に際のシーンも実に良かった。
ボストンにあるチャールズタウンという実在の町に根付いた物語であることも、ほかの銀行強盗もの映画とは一線を画している。悪役であり母親の仇である"花屋"にきっちりケリをつけるところとか、ヒロインとの過去の会話を用いた暗号によって危機を免れてバス運転手に変装して町を脱出するところなどは、フィクションっぽ過ぎるような気もするがなかなかの名シーンだ。近年の一部の犯罪映画のようなハイテンポではないものの、ダレるようなローテンポになることもなくて、ちょうど良い。犯罪者を主人公にしておきながら「情」を強調したストーリーにした作品というのはそれだけで苦手な人が多いものだが、この作品はうまく描き切っているように思う。小粒な佳作であることは間違いないが、悪くないという感じだ。