『善き人に悪魔は訪れる』+『ザ・ハント』+『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク 』
●『善き人に悪魔は訪れる』
あらすじだけを読むと「なんだかありがちだしほんとうに面白くなるの?」という不安感を抱かされるが、格好いい放題やイドリス・エルバという存在感のある主演俳優に惹かれて、視聴。……しかし、あらすじから抱く印象の通り、ありがちでつまらない作品だった。
悪役が悪人であることは冒頭から明かされているし、それなりに凶暴でそれなりに狡猾ではあるものの、90分の映画の主役を張れるほどの個性は全くない。マジで、ただの「凶悪犯」以外の何者でもないのだ。それに対峙する人妻ヒロインも普通だし、運悪く殺されてしまう女性たちもふつー。死に方もあっけないからグロさもホラーもないし。
邦題の通りに「善き人」と「悪魔」の対比を描くために人妻ヒロインの善人性を強調すればまだ面白さのある作品になっていたかもしれないが、そんな工夫もされていなくて、ただただフツー。事件が終わった後に、事件の途中で浮気が判明した夫と別れるという展開も「なんだそりゃ」という感じ。
●『ザ・ハント』
「高慢ちきなリベラルエリートたちが田舎の差別的なレッドネックたちを狩る殺人ゲーム」という、社会風刺モリモリな、デスゲームものをパロディした作品。
デスゲームが開始して、それなりの美女や美男にスポットが当たって「この人が主人公になるのかな」と思いきや呆気なく殺される、という導入にはかなり惹き込まれる。デスゲームの開始前から悪役たちの存在を描いて「種明かし」しているところも潔い。字幕だと表現しきれていないが、残虐な殺人ゲームを主催しておきながら自分が差別者と認定されることを恐れたり「文化の盗用」とかのポリコレ用語をすぐに口に出すエリートたちの姿も現代的なギャグとしておもしろい。銃を目にした途端にわらわらと群がる田舎白人たちの姿もシュールだ。左右のどちらもジョークの題材にしているのだが、バランス感覚があり、そしてジョークがちゃんと面白いところが優れている。
ベティ・ギルピンが演じるやたらとパワフルで殺意満々なヒロインはそれなりに魅力的であるが、たとえば彼女がデスゲームをガンガン破壊するといった爽快感のある展開が描かれるわけではなく(途中でエリートたちの大半を殲滅するシーンはあるけれど)、列車に乗ってデスゲームの「会場」から離れて以降の展開は基本的にダラダラとしている。エリートたちの女ボスとの対峙や戦闘シーンも冴えたものではない。この映画の魅力のほとんど全ては前半に収まっており、後半は出涸らしになっていることは否めない。
ところで、「問題作」と評される本作だが、エリートたちの一人を除けば登場人物は全て白人である点、どちらの陣営も主力は若い女性であり彼女たちの対峙が作品のクライマックスになる点など、アイデンティティ・ポリティクス的な対立構造を煽り過ぎてグロテスクで危険な作品にならないようにするという配慮はきちんとなされていると思う。逆にいえば、そのせいで穏当な範囲に範囲に小ぢんまりと収まっており、物足りなくなっている。たとえば、ヒロインではなく太った田舎白人のおっさんたちのうちのだれかが主役となっていた方が、絵面としてもオリジナリティがあり、そして作品の不穏さも増して面白くなっていたことだろう。
●『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク 』
なんかテレビ放映されていたらしくT Lで感想が流れてきたので、配信で主張。
以前に見たのはたしか小学生のときで、子どもながらにヒロインにムカついて、次々と恐竜に食い殺されていくハンターたちと、他人を危険に晒してもまったく傷付くことなく守られる主人公陣営との「命の価値」の差に不快感を抱いたが、20年以上経ったのちに観てもまったく同じ感想。感想が変わらなさ過ぎで逆にすごいくらいだ。見直してもなにか新たな発見があるということはまったくなく、とにかくグロテスクに人の命が消費されていく様子を描いただけの、浅薄で下品な作品だと思う。ティラノサウルスがアメリカに上陸するシーンにはそれなりにファンタジー性やロマンが感じられるんだけれど。
スピルバーグは『ジョーズ』のように完成度の高い作品や『ブリッジ・オブ・スパイ』のように感動的な作品も撮れる人物であるが、それだけに、『ロスト・ワールド』や『レディ・プレイヤー・1』のような浅薄で下品な作品を撮っているというのがイヤだ。矜持や一貫性が感じられなくて人間的に不気味であるし、良質な作品のほうで感動的なシーンがあったり人道的なメッセージが強調されていても、「でも『ロスト・ワールド』であんな風に人の生命の価値に露骨な差をつけて描いたやつだぞコイツ」って思い出して不愉快な気持ちになっちゃうのだ。